【鎌倉FM 第38回】鎌倉の暮らしに見る「豊かさ」の立脚点

今回のゲストは、株式会社ヨンロクニ代表、そしてコンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長でもある滝沢守生さんです。気候変動・生物多様性の課題解決に向け、アウトドアの最前線で活躍されている滝沢さん。世界的な課題や日本のアウトドアフィールドの現状を踏まえながら、常に未来を見据え動き続ける滝沢さんにとって、湘南での暮らしと仕事とは?

目次

好きが高じて、アウトドアに関するなんでも屋さんに

小松

株式会社ヨンロクニがどんな会社なのか、まずはご紹介いただけますか?

滝沢さん

ここまでブレずに来られた理由というのは、やはり海とか、そういうベースがあったからなん「ヨンロクニ」ってふざけた名前だなと思われると思うんですが、この会社を設立する前に、アウトドアのフリーランスのライターやカメラマンや編集者たちで、イベントのサポートをしたり、メディアを立ち上げたりしながら、そういうフリーランスの集まりでやっていても仕方がないので法人でも立ち上げるか、となったんです。それまで僕らは「ヨロズ」という屋号でユニットとして活動していたんですよ。日本の自然は八百万の神がいると言われるぐらいだし、「ヨロズ」っていいよねと。で、「ヨロズ、ヨロズ…462、ヨンロクニでいいんじゃないか?!」みたいな(笑)
 
うちの会社はアウトドア専門の制作会社で、紙、デジタル、イベントの制作運営など本当になんでも屋さんです。アウトドアにまつわるなんでも屋さん。それこそ「ヨロズ屋さん」ということで「ヨンロクニ」という名前にしています。ですか?

小松

滝沢さん自身がアウトドアの分野に飛び込んだきっかけは何だったんですか?

滝沢さん

僕はもともとずっと山登りをやっていたんです。キャンプというのはある意味手段じゃないですか、山に登るためにテントを担いで行くという。じゃあなんで山登りを始めたんだという話になりますよね? 僕は東京生まれで、子どもの頃からずっと剣道をやっていて、もっと強くなりたいと思った時に「よし! これは山ごもりだ」と。中3の時に山岳部の友達にその話をしたら、山に連れてってやるよとなって、それが初めての登山でした。で、山に行ったらそいつが強いんですよ。「俺、剣道なんかやってる場合じゃない。まず生き物としての強さが足りない!」って、もうそいつの逞しさにやられちゃって。それから本当にはまって山ばかり行っていたら、今度は大学もなかなか卒業できなくなっちゃって。気がついたらいよいよ学校も出なきゃいけない、どうする?って時に、唯一拾ってくれたのが「山と渓谷社」という出版社だったんです。そこで『山と渓谷』という登山の雑誌をつくったり、アウトドア専門誌の編集から書籍もやって。山登りとアウトドアの仕事しかしたくなかったんですよ。

小室

好きこそ、っていうところですよね。理想的です。

滝沢さん

そうですよね、好きが高じて仕事になっていくなんて、やろうと思ってもなかなかできないという方もいらっしゃいますから。ご縁に感謝してます。

自分の「生」を自然へ返すフェーズ

小松

そもそもは滝沢さんの「好き」というか、レジャーや楽しみとしての山とのつき合い方だったと思うんですけど、今や環境問題の方にまで分野が広がってますよね。その変化については、どういうふうに捉えていらっしゃいますか?

滝沢さん

アウトドアの歴史は、自然保護の歴史なんです。1950年代〜60年代までは、どの本を見たって「アウトドア」なんて言葉はないんです。アメリカでそういう自然保護という運動・ムーブメントが盛んになってきて、このままじゃまずいぞと気づいた若者たちがどんどんバックパックを背負って荒野に旅に出ていったところから、アウトドアという自然とのつき合い方・カルチャーが始まった。それが日本に入ってきたのがちょうど70年代。となると、アウトドアを突き詰めていくとやはり自然保護に行き着く。自然を大切にしないと僕らの遊び場がなくなっちゃうよね、山も川も海も全部アウトドアのフィールドだから、それがなくなっちゃったら僕らも遊べないよね、まず大事なのはそこだよねと。
 
僕自身もだいぶ遊ばせてもらったので、次のフェーズとしてはやはり自分の「生」を返すというか、人生をフィールドに返すことを本気でやらないとダメだなと思って、今こういう活動をしています。コンサベーション・アライアンス・ジャパンも、実はアメリカにコンサベーション・アライアンスという団体があるんです。アウトドアのメーカーやサプライヤーなど、アウトドアに関わる産業界が会員になっていて、アメリカの自然を守る活動に対して資金的援助をしようという団体です。今では250社以上のブランドや団体が加盟している組織になっています。こういう団体を日本でも立ち上げようと。ちょうど20年程前、日本各地で自然保護運動が盛んになり、これは何とか産業界がそういう運動をサポートをしてあげなきゃいけないということで始まったんです。やはり僕らは直接的には保護活動ができないので、草の根で頑張っているNPOやNGOなどの団体の活動資金を提供する基金団体なんです。

小松

とても大事なことですよね。

文明と自然を両立させているから心地いい

河野

滝沢さんはとにかくアウトドアが好き、自然が好きっていう実体験が伴っているところがあるから、本当に体験は大事なんだと感じますよね。やはり自分が遊ばせてもらっているからこそ守っていかなきゃという気持ちが芽生えてくる。片や、なかなか自然と接点がない人に環境のことを言ってもあまりピンとこない、みたいなこともあると思うので。でも鎌倉は、例えばゴミの問題に一生懸命取り組んでいるコミュニティがあったり、コンポストなど家庭で環境への取り組みをやっている人も多いような気がしています。その辺は、あかりさんはいかがですか?

小松

そうですね、自然との接点が暮らしにも根づいている地域性は本当によく感じています。そんな中でやっぱり人工的なゴミとか、そういったものが目につきやすい環境ではありますよね。で、そういう状況を共有している地域なので、その共通項が土台になって運動に変わっていくケースが多発していると思いますね、鎌倉は。

河野

滝沢さんは、鎌倉に住まれて長いんですか?

滝沢さん

そうですね、結婚してから鎌倉に引っ越してきたんですけど、海もあるし、山も近いし、子どもができてなおのこと「鎌倉に生まれたかったな」って心から思いましたね。遊び尽くせないほどの自然が手の届くところにある。別に砂遊びなんか「もう一生やってていいですよ」ぐらいの砂浜が広がっているわけじゃないですか(笑)。ちょっと裏へ行けば深い山があって。文明と自然がすごくバランスよく一体化しているんですよね。文明が自然の上にちゃんと成り立っていたり、一体化していたりすると、すごく気持ちいいですよね。やっぱり僕らは文明も否定できないので、文明を否定しないで自然をちゃんと大切にする、一体化するってことが重要で、アウトドアにはその学びもあるし、鎌倉という場所が何かそういう先進的なエリアだなと思うんです。横須賀線で帰ってきて、プシューッと電車のドアが開いた時に、北鎌倉では山の匂いがして、鎌倉の駅に帰ってくると海の匂いが…なんてね。まだ都会にも自然の匂いが感じられるところがあるんだと思うと癒されますよね、安心すると言うか。
 
日本の自然の特徴は、やはり海が近いってことなんです。要するに山に降った雨がすぐ海に流れ出している。だからうちの息子は釣りが好きになったんですよ。山では渓流釣りができるし、その渓流からきれいな水が流れ込む河口の海では良い魚が釣れるんですよ。このつながりが分かると、山登りだけじゃなくて、トータルに日本の自然で遊ぶのがもっと楽しくなる。海と山が両方ともこれだけ近い距離にある湘南エリアのアウトドア遊びの楽しさはこの点にあると思います。

アウトドアカルチャー先進地としてのリーダーシップ

小松

昨年秋にCOP26が開催されて世界的に注目されましたけれども、今回の内容について滝沢さんはどういうふうに見ていらっしゃいますか?

滝沢さん

気になったのがやはりCOP15だったんですよね。去年の秋に中国の昆明で開かれた生物多様性条約。もちろん気候変動の枠組み条約、COP26の方も非常に大切だったんですが、それよりもCOP15がアウトドア業界にいる者としてはかなり気になっていました。今後、日本が生物多様性の中でどんなリードをしていけるのかなと思いながら見ていました。
 
というのは、これは僕らが70年代にアウトドアというカルチャーをアメリカから学んだように、今後は日本が自然保護だったり、生物多様性だったり、まさに「エコロジーとアウトドア」という考え方の最上流にいなきゃいけないと思うんですよ。COP15が中国で開かれるっていうのがすごいエポックで、やっぱりアウトドアをやる人たちって、ある意味都市社会の人たちで、僕らがかつてアメリカから学んだように、中国もしくはアジアの人たちがこれからアウトドア・アクティビティをどんどんするようになると思うんです。キャンプをしたり、登山をしたり、スノボに行ったりするようになる。そしたらやっぱり日本がそのお手本にならなきゃいけない。もう日本は先んじて、こういうアウトドアカルチャーが根づいている国なので、今後アジアの人たちがアウトドアやってみたいな、行ってみたいなと思った時に、やっぱり日本を見習ってほしいし、制度としても「ああ、日本にはこういう素晴らしい国立公園があるんだ、こういうルールで環境を守っているんだ」とか、例えば釣りに行く時にも「キャッチ&リリースっていう考え方があるんだ」みたいなことを、日本が示していかなきゃいけないと思う。
 
中国で開かれたあの生物多様性条約っていうのは、日本がリーダーとして振る舞わなきゃいけない会議だと思って見ていました。この春に、その具体的な内容をどういうふうにつくっていくかという時に、日本はある程度リーダーになっていかなきゃいけないんじゃないかと。それこそアウトドアという経済を回すということも含めて。ただ「自然を守ろうよ」だけじゃ、やはりなかなか各国ついてこないですが、「こういう方法であれば、こんなに豊かな暮らしも、そして環境も手に入れられる」という時代を提示してほしいと思いますね。

小松

面白いですね。世界の流れを見通しつつ、日本のあり方も考えて、さらに鎌倉というこの土地で、経済と環境のバランスを両立させて先進的な豊かな暮らしを実現していくという。

滝沢さん

そう、鎌倉はかなりイケてる。歴史もある。自然もある。そしてそこで生活してる人たちの意識がとても自然にやさしいというか、文明だけを見ているんじゃなく、ちゃんと自然と暮らしを見ながら、豊かさの立脚点がどこなのかを市民の多くが意識している。鎌倉は単なる観光地じゃなくて、本当に世界のモデルになるぐらい、自然と文明を両立して暮らしを豊かにしている人たちがいる。そこが世界に誇れる町なんじゃないかと思いますね。

小室

お墨つきが出ましたね。

滝沢さん

いや、鎌倉市にやってほしいぐらいなんですよ、本当に。

小松

良い事例というか、カルチャーがたくさんプールされている地域ですよね。

滝沢さん

鎌倉だったら、海のこともできるし、山のこともできるし、歴史のことも言えるし、いいなぁと思いますね。

今回のゲスト

滝沢守生(たきざわもりお)さん

鎌倉市在住。アウトドアをフィールドにメディアやイベントの制作等を行う株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。
 
Webサイト▶︎ https://yorozu462.com/ 
 

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

森田マイコの記事一覧

目次