今回のゲストは、鎌倉市にある「Children’s Cafe & B&B Kimie(キミエ食堂)」オーナーの瀬戸貴美恵さんです。長年の夢でもあった「こども食堂」を2019年にオープン。鎌倉と川崎の2拠点生活を叶えつつ、食堂と民泊とカフェを同時に運営されています。留まることを知らないその活力の源は一体どこにあるのでしょうか? そして鎌倉で暮らし、働くことで得たものとは?
子ども食堂と鎌倉暮らしの2つの夢を叶える
今日はキミエ食堂にお邪魔して、この後ランチもいただきます。今日のメニューはどんな感じですか?
今日は焼き魚。「本日のランチ」はいつも焼き魚です。他にはツナサンドとキーマカレーがあります。
うわぁ、いいな! 悩ましい!
今日はそんなキミエ食堂のオーナー、瀬戸貴美恵さんにお話しいただきます。よろしくお願いします。
本当に素敵な景観で。川が見渡せる、なかなかないですよね、この角度から。
そうですね。ここは川が建物に面して縦に流れているんです。だから見通しがすごく良くて、この景色に一目惚れして「私はここで子ども食堂をやろう!」と思ったんです。
いやぁ、まさにこの景色、みんな一目惚れポイントですよね。
抜け感が良い。
光の加減とか、いいですよね。素晴らしい場所で。
いろいろ物件を探してたどり着いたんですか?
探したんですけど、いちばん最初に見たのがこれで、これより良い物件がなくて。でもここ、売り物件だったんですよ。高かったし、一回あきらめたんですけど、その後も売れていなかったので「貸してください」って頼んで。それで借りてやっています。
すごい! そもそも鎌倉の中で探していたんですか?
そうです。もう鎌倉限定です。鎌倉が大好きで、老後はリタイアしたら鎌倉に住みたいという夢がありました。一方で子ども食堂をやりたいというは夢もずっと抱いていて、「鎌倉でそれをやれば一石二鳥で夢が2つとも叶うじゃん!」って。
ええー! もともとお住まいはどちらなんですか?
百合ヶ丘という、小田急線の川崎市麻生区というところに家はあって、旦那も息子も私もそこで暮らしていたんですけど、今はここに私が単身赴任中です(笑)
ここに住んでいらっしゃるんですね?
そう。夢が叶いました。夫も来たいって言っています。
じゃあ、いずれはご家族で?
そうですね。
今は、瀬戸さんは2拠点生活?
そうです。だから私も月1くらい百合ヶ丘に帰るし、夫も鎌倉に来たりして、行ったり来たり。
実際どうですか? 鎌倉は昔からの夢で、移住されて、何かギャップはあります?
いや、もうね、とにかく鎌倉の人って優しい。住む前から通っていたんですけど、まず狭い歩道で行き違う時に、相手がガードレールの外で待ってくれたりとか、横断歩道で立っていると必ず車が止まったりとか、ここに子ども食堂の看板を掲げているせいもあるんですけど、ご近所さんが「大根食べますか?」とか「お米余ってるんですけど要りますか?」とか、優しい。まあ、そんなしょっちゅうは来ないですけど、でも黙って玄関先に未開封の油とお醤油が置いてあったことがあって。鎌倉の人の優しさをすごく感じます。オープンして半年でコロナになっちゃったけど、近所の人が応援してくれていると思うと頑張れるというか、「よし!」みたいな気持ちになれます。
民泊もカフェも掛け合わせて、誰でも来られる地域の居場所に
僕、あまり分かっていないんですが、子ども食堂って、誰が行けるんですか?
大人も子どもも誰でもOKです。だから最初は近所の一人暮らしのおじいさんが来ていて、「子ども食堂」じゃなくて「おじいさん食堂」みたいになってました(笑)。でも私としては誰でもOKで、地域の子どもも大人もお年寄りの方もいっぱい来て、ここが地域のコミュニティと言いますか、居場所になればいいなと思っているんです。おじいさんが竹馬を持ってきて子どもに乗り方を教えてくれたり、空気鉄砲を教えてくれたり、そういうのを見ていて本当に良かったなって思いました。このスペースがあって、地域の人と子どもたちがコミュニケーションを取れる場所になっているのを見て、やって良かったなって。
子ども食堂だけじゃなくカフェもやっているのも、来やすいポイントかなと思います。最初カフェに来て、子ども食堂にも来て、「大人も食べられますよ」って言われたからその後も来るようになったってお客さんがおっしゃるんです。カフェがきっかけで「ボランティアやりたい」とか。民泊の方も「子ども食堂があることを伝えたい」と言って泊まる方もいるし。だからカフェと民泊と子ども食堂の相乗効果が、3倍にも4倍にもなっているのかもしれない。
瀬戸さんとしては、どこを先にと言うか、全部やりたかったんですか?
とにかく子ども食堂は、前職の東京のこども家庭支援センターの子育て支援専門員を10年やる中で、子どもの食がすごく心配だったんですよね。コンビニのおにぎりやカップラーメンを食べていて、手づくりのごはんを食べていない子どもがたくさんいることに衝撃を受けて。
私はたまたま料理が好きだったし、国産のものや、なるべく減農薬・無農薬のものを選び、化学調味料を使わないことを意識して子育てしてきたので、何とかできないかと思ったんです。「私がこの子たちにごはんをつくれるじゃないか、リタイアしたら絶対に子ども食堂をやろう!」って、ずっと温めて来たのですが、「どうせできるわけないや」「やれるわけないや」「私には無理」という思いもあって、本当にやろうかどうしようか迷っていたんです。でも死ぬ時に、「子ども食堂をやりたかったな、鎌倉に住みたかったな」って絶対に後悔してしまいそうな気がしたので、だったらもう老後の貯金なんか全部使っちゃってもいいから、やりたいことやろうと。いつ死ぬか分かんないし。
そう思って、2019年の4月・5月にクラウドファンディングでリフォーム費を集め、6月に引っ越し、7月から子ども食堂をスタートしました。
子ども食堂がスタートなんですね。
子ども食堂はほとんどのところが法人格を取って寄付で運営しているんですが、私は寄付で運営するのはどうかなという思いがありました。鎌倉だったら民泊でお金を稼いで、その収益の一部を子ども食堂に充てようと考えたんです。だから民泊が2番目。
だけど民泊は2018年に民泊新法ができて、年間180日以上部屋を貸してはいけないという法律ができたんですね。それで、もしかしたらお金が足りなくなっちゃうかもしれないと思い、宿泊のゲストがチェックアウトして、次のゲストが来るチェックインの3時まで、3時間ぐらいだったらランチもできるかなと思い、カフェも始めたんです。
3番目がカフェだったと。
民泊はすごく楽しい。
へぇー!
ゲストさんとの触れ合いが私はすごく楽しくて、みんなに「天職」って言われます(笑)。やっぱりやって良かった。
ここまで培ってきたご経験が生きていますよね。子育てもそうだし、支援員としていろいろされてきたその経験を全部集めて。
本当はホモサピエンスの子育てって、100人とかそういう単位で移動しながら、みんなで子どもを預け合ったりしてきたんです。今のママって孤独でしょ?
そうかもしれません。逃げ場がとにかくないですよね。
そうなんです。だからそういうところでも、昔の仕事の経験が役に立っていて。やはり親のニーズになかなか社会が追いつかない現状がありますよね。子ども食堂も、貧困や食育の解決なんて本来は国の政策でやるべきことじゃないですか。国がやらなきゃいけないことを、私たちが代わりにやっている。
自分でやっちゃった方が早いという。
そうそう。だからそういう人たちが志で頑張っているというのが現状。本当は国がやらなきゃいけないこと。
なかなか国の変化を待っていられないですよね。だってその間にも、子どもは育ってますから。
誰のためにやっているのかと考えたら、子どものためなんですよ。子どものために、学校も市役所も協力していかなきゃいけないですよね。使えるサービスはどんどん使ってほしいし、私はそのサービスを提供できるので、それを使ってほしいといつも思うんですけど、なかなかそれがうまく回っていかない感じですよね。
そういう制度やサービスがあることさえ分からない人も多いのかもしれないですね。
大勢いると思います。そういう方々はたいてい情報弱者なんですよね。カウンターにデンと構えていらっしゃいって言うんじゃなくて、どんどん外へ出ていって、そこの家に必要なものはないか?ってカバーしていかなきゃいけないと思うんです。すいません、この話題、熱くなっちゃう(笑)
本当に本気で動いてらっしゃるから。すごい行動力ですよね!
うん。そして、そういう情報も全部熟知されいて、それを自分で提供できるんだって動いている瀬戸さんが鎌倉にいらっしゃるのって、それは鎌倉の財産じゃないですか。すごいことですよね。
手づくりのごはんをみんなで一緒に食べる、もう一つの実家
鎌倉で過ごしたいという方々の目的というか、何を目がけてここに来るんですかね? 鎌倉に何を求めているんでしょうか?
人それぞれですけど、鎌倉が好きっていう人は圧倒的に多いし、海も山もあるし、やっぱり癒されたい人も多いですよね。
癒しを求めてるんですね、みんな。
うちに来るゲストさん、みんな「実家感がある」って(笑)
分かる分かる! 実家感ある!
その辺でゴロゴロ寝転がってる人もいたり。
確かに親戚の家に来たような感じがしますね。
ランチの後で、常連さんは「ちょっと寝てていい?」って聞く人もいますよ。
最高ですね(笑)。畳のスペースがあるんですよね。いや素敵だなぁ、そのぐらい今、癒しがないんですよね。日々何かに迷い、何か追われて、あえてその時間を取らないと癒してもらえないっていう。最後になりますが、今後やってみたいことや、目標などはありますか?
はい。実はここで民泊を始める時に、職場の同僚たちから「シェルターやって」と言われたんです。東京もそうなんですけど、12歳まではショートステイなどがあってシェルター機能になっているんですが、思春期のシェルターがないんですよ。里親だったら「3日里親」といって、施設にいる子が、例えば施設にいたくない、でも行く所がないとなった時にここに来れるし、里親でもショートや短期だったら、例えば一時保護されたお子さんは一時保護所から通学はできないんですが、そういう時にうちが受託して、うちから学校に通うこともできる。実は今、里親の資格を取ろうとしているんです。
もう止まらないですね。
県の児童相談所と連携して。里親は最初の構想とは違うけど、もったいないじゃないですか、ここを有効利用しないと。だから今動いています。
いやぁ、すごいですよ。
どんどん付け加えられていく。それは必要だから?
来る方にいっぱいアイデアもらえるんです。人のつながりってすごいなと思います。
まず動いてみて、必要なことが見えてきて、さらにずっとずっと成長されている。
いろんなことをやられているんですけど、どれにも共通しているというか、一貫している想いがあるんですか?
やっぱり子どもですよね。子どもを健全に育てたい、育ってほしいということ。自分の子育てがうまくいっているかと言われたら自信はないですが、これから日本を担う子どもたちを健全に育てたい。子どもの成長の機会がお金があるかないかで決まっちゃうのは問題ですよね。この間も新聞に出ていましたが、家に本がいっぱいある子どもは学力テストの結果も良いんですよ。でもそれは経済力の差なんです。それで子どもの将来が決められちゃったら残念だし、できることは何でもしてあげたい。未来ある子どもたちに健全に育ってもらいたいから、そのお手伝いが本当にちょっとだけできれば。
うちは食育で手伝いたいと思っているんです。だってね、医食同源というように食べる物で人間の体ができているから、やっぱり良いものを食べないと、良い動きができないですよね。脳も骨も血も肉も倍々に育っていく時期に、良いものを体に入れてあげないと心配だから、カップラーメンとか食べてるんだったら、うちに来てみんなでおいしいごはん食べようよって。手づくりの安全なごはんを食べようよっていうのが私の目標。
今回のゲスト
瀬戸貴美恵(せときみえ)さん
東京都のこども家庭支援センターで子育て支援専門員を10年間勤め、退職後、鎌倉で念願だった子ども食堂を開業。川崎市との2拠点生活をしながら民泊やカフェの運営を複合的に行っている。子育て支援の経験を生かし、行き場のない子どもたちの避難場所となるべく、里親の資格取得も目指している。
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