【鎌倉FM 第18回】海のまちで子どもと始める未来の育み方

今回のゲストは一般社団法人そっか共同代表の小野寺愛さん。「うみのこ」「黒門とびうおクラブ」など、逗子を拠点に大人も子どもも共に遊んで学ぶ教育活動に積極的に取り組んでいらっしゃいます。国際交流NGOピースボートのスタッフとして地球中を見てきた小野寺さんが、逗子に根差した理由とは? そしていま、育みたい未来とは? お話を伺いました。

目次

学生時代に地球を2周して見えてきた、自分の答え

小野寺さん

旅したくなかったですか? 若い時。

河野

したかった。

小野寺さん

でもお金なかったですよね。

小松

なかった!

小野寺さん

ピースボートって、ボランティア通訳に採用されると、仕事をしながらタダで地球1周できるんですよ。だから大学の最後の年に、私、地球を2周してるんですよね。

小室

うわぁ、2周してるのか。

小野寺さん

その時に本当にいろんなことを体験させてもらいました。1つずつの出会いを紹介するだけでたぶん24時間話せるんですけど(笑)。旅を通して分かったことがあるとすれば、それは、グローバルな課題の解決策をつくっているのは、みんな草の根で頑張っている人たちだったということ。ピースボート勤務16年の間に、「旅して答えばかり見ているんだったら、もう自分の暮らす町で答えをつくらなきゃ」って思うようになりました。

それでいま、神奈川県の逗子市で、海と森で子どもと遊びまくる活動をしています。「子どもの育ちを邪魔しない」って、もともとはモンテッソーリ教育で教えてもらったことなんですけど、それが自然の中だとものすごく楽しくできるので。

Photo / Yo Ueyama
小野寺さん

世界中どこにいる子どもでも、這えば立ち、立てば歩もうとして、何回転んでも努力をやめないじゃないですか。自分には絶対できると信じてあきらめない。でもいつからか、「どうせオレできないし」とか、「ちょっとそれは無理だよね」って言うようになっちゃう。なんで?!と思って。

生まれた時は「どうせ無理だからやめとこ」なんて誰も思わないのに、いつから変わってしまうんだろう? もしかして、子どもの自然な育ちを邪魔しなければ、それがいちばんの世界平和への近道なんじゃないか…そんな答えも、ピースボートで得たんです。

逗子には森と海があって、子ども1人ひとりの「そのまんまの育ち」を応援しやすい環境があります。ここで子どもと一緒に、食べて、つくって、遊びまくることをしてみたらどうかと。衣食住のすべてをお金で買えるようになった便利な時代に、あえて「とって食う」ことや、何もない場所からつくって遊ぶことをしてみようと。

何か特別なことを教えなくても、大人たちがそのまんまの自分で命を燃やして生きていれば、子どもたちもその背中を見て自然と、自分で考え行動して、人生を楽しめる人になっていくと信じて、日々動いています

逗子で100年続くものをつくりたい

河野

逗子を選択された理由は、何かあったんでしょうか?

小野寺さん

「子どもの自転車圏内」、つまり半径2.5kmが大事なキーワードだと思っているんです。この圏内に何があるかが、小学生を育てる上ですごく大事。子どもって、2年生ぐらいから町中を自転車で勝手に遊びまわるようになりますよね。逗子は子どもの自転車圏内に海も森もあって、人口も5万9千人でコンパクト。おもしろい活動をしている人がつながりやすいんですよね。

世界中を見渡すと、実は今も、世界の大半の人が半径2.5kmで得られるもの、足下の自然から得られるもので暮らしています。衣食住のすべてをお金で解決できる暮らし、つまり都会での生活は、世界ではまだまだマイノリティーなんです。逗子でなら、みんなで楽しみながら、遊びながら、衣食住を少しずつ自分たちの手の中に取り戻せる。そこから見えるものがたくさんあるんじゃないかなと思っているんです。

大都会では、すべてが速くて、多くて、過密しているでしょう? コロナがこんなに世界を変えるなんてことは予測できませんでしたけど、都会の暮らし、あのスピードと量では人にも地球にも負荷が多くて、「これじゃ続いていかないな」とは思っていました。

ずっと続いていくことがやりたいと思った時に、海が目の前にあった。海は人が悪さをしなければそこに在り続けて、ゆったりとした時間と空間、たくさんの恵みを与えてくれます。そういう場所から切り離されなければ、子どもたちはそれぞれの在り方でそのまま育っていける。海でやっている理由は、ただそれだけなんです。
 
1人の大人として、1000年とは言わなくても、せめて100年続く場をつくっていたいなと思いますね。

足下の自然でとことん遊ぶ、自分ごとの環境教育

小野寺さん

海はきっかけではありますが、海のことを教えている、という感じでもないんです。1秒たりとも同じ状態にとどまっていない自然の中で、子どもが「あ、そのままの自分でいいんだな」というのを感じてもらえたらいい。

いま、みんな忙しすぎるでしょう? 大人だけじゃなく、子どもたちも。月曜日は水泳、火曜日はピアノで、水曜日は何とかで、って、大人が良かれと組んだ予定で毎日が埋まってしまっている。どれだけ素晴らしい先生の習いごとだったとしても忙しすぎたら意味がない。だって、人の創造性が発揮されるのって、余白の時間じゃないですか? 自分で「今日は何しようかな?」と思う機会に生まれるものがいろいろある。

海には、時間も空間も、仲間もある。そんな場所なら、面白いことも、自分たちだけの「間」も、生まれやすい。

小室

うん、それで海なんだ。

小野寺さん

誰に教わるかよりも、自分で決めているかどうかが鍵なんじゃないかと。自分で選んで携わるからこその「うおー、楽しい」っていうワクワクなしには、どれだけ素晴らしい人に何か教わっても…ね。

河野

なるほど。

Photo / Yo Ueyama
小野寺さん

これ、私たち「生命地域地図」って呼んでるんですけど。

河野

「生命地域」?

河野

小学校3年生になると、学校で地図の学習をしますよね。郵便局はどこにあって、スーパーはどこにあって、駅がどこにあって…っていう。地図学習の最初にやるのが、人工造形物で構成された町を知ることなんです。それでいいのかな?って、少し不安があって。その前に、目の前を流れている川の水源がどこにあるかわかる? 春の野草がどこでとれるか知ってる?って。

昔は子どもたちが地域で遊ぶ中で勝手に身につけていた、身の周りにある自然の循環の分布をいまの子たちはベースとして持っていない。自然があって、地域があって、自分がある。それなのに、いちばん大事な自然をすっ飛ばして生きることができるような気がしてしまっている。大人も、子どもも。
 
でもそれを取り戻し始めるのは、実はそんなに難しいことじゃない。川の水源くらいなら、海から遡ってジャブジャブ歩き始めたら誰でも分かるじゃないですか。「自然の循環を先に見てみようよ、ダムと水道局の勉強の前に!」というのを、遊びながらやっているんです。

環境のことが問題になってから教えられても、いまいち自分ごととして響かないでしょう? でも、さんざん遊んだ大事な場所が失われていくのであれば、話は別。誰に何を教わらなくたって、自分ごととして最初から気になり出すんです。だからやっぱり、まずとことん足下の自然の中で遊ぶのが大事だなと。

河野

逗子の良さって、この海と山がすごく近くて、そのコンパクトさというか、その中に多様な生態系がある、こういう場所はなかなか無いですよね。

Photo / Yo Ueyama

新しい生活様式とは? 衣食住や地域を取り戻す

小野寺さん

今まで先生たちに重荷を強いて、何でもかんでも学校にお願いしてしまっていた。それがコロナで手元に戻ってきた気がします。衣食住や、地域のつながり、果てには子育てまで学校にお願いしていたのは大間違い。学校はいろんな友達に出会える楽しい場であり、読み書き算数を教えてくれたらそれでいいんです。それを支える地域の方は、大人がみんなで総力を上げてつくっていかないといけない。命を燃やして動く大人が地域にたくさんいれば、子どもたちは放っておいてもこんなに自然に動き出すんだというのが、コロナの中でのいちばんの学びです。

小松

でもやっぱりコロナ以前の状態に戻り始めているじゃないですか、社会の流れとして。小野寺さんは、それをどう感じていらっしゃいますか?

小野寺さん

新しい生活様式って「なんにも新しくなーい!」と思ってて(笑)。「3密を避ける」と言いながら、教室に子どもたちを戻すじゃないですか。教室に40人詰め込んでおいて「密を避けろ」だなんて、先生にも生徒にも酷です。なぜ給食を校庭で食べない? なぜ授業の一部を外に出さない? 特に小学校までは、教室の中でしか教えられないことなんて、冷静に考えたらそんなに多くないはずなのに。

いままで通りにしてたらダメなんだと改めてあらゆる面で気がついて、経済も社会も変えていくチャンスと捉えたい。自分は指示待ちだけど、問題があったら国を批判する …大人たちがそんな姿勢じゃ、未来は開けません。国だって答えを模索中なんだから、みんなですべてのことにゼロから挑戦しようよというか。本当の意味での新しい生活様式を、みんなそれぞれに探さなきゃいけないんじゃないかなと思います。

新しい生活様式で言えば、「3密を避ける」だけでなく、これまで足りていなかった「3つの『間』を取り戻す」ことを提案したいです。子どもが育つのに欠かせない「時間、空間、仲間」ね。都会で忙しくしていたら、これまで、そのどれも足りていなかったんじゃないかな。子どもはもちろん、大人にも。

こうなったらいいなと思う世界に、自分からなりに行く

小松

どんな1歩を踏み出すと、自分もその波に乗っていけるんだろう?

小野寺さん

「いいな、いいな」と思っている時は、「待ち」の状態ですよね。何かいいこと起こらないかな、誰か助けてくれないかなって。そうじゃなく、先に助けに行っちゃったらどうかな。苦しいからこそお裾分けしたり、時間がない時ほど逆に近所の子を預かっちゃう。

先に幸せを広げに行って、先に子どもを預かりに行って、お節介をやきにいって、お裾分けをしにいく。すると、そこから小さな助け合いやつながり合い、幸せの相乗効果の掛け合いがはじまる。自分がこうだったらいいなと思う世界の一部に、自分からなりにいく。

河野

うん。

小松

できる範囲で。

小野寺さん

うん、できる範囲で。そこから始まる。

小松

地域分散みたいなものがこれから始まるから、都心に住んでいた人たちも、やはり子どもの育つ環境を考えたら地方が良いかもと方向性を変え始めている中で、「このまちにはこんな教育の環境があるよ」というのが1つあると、選択肢も見えてきますよね。

小室

そうだねぇ。

小松

そういう中で、この逗子は、すごく選ばれやすい場所ですよね。

今回のゲスト

小野寺愛(おのでらあい)さん

逗子市在住。一般社団法人そっか共同代表。逗子の海・森・畑で、子どもと、子どもみたいな大人たちと日々遊ぶ。 毎週木曜日11時半〜TokyoFMでラジオ番組「サステナ*デイズ 」ナビゲーター。

▼小野寺愛 notehttps://note.com/aionodera

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

森田マイコの記事一覧

目次