ラジオ収録 前半
ラジオ収録 後半
今回のゲストは、航空会社勤務からファッション業界でのPRを経て独立し、現在、鎌倉を拠点にフリーランスのPRとして活躍している小松はるかさんです。時間の使い方や仕事の幅を自由自在に選択できる「フリーランス」という働き方の実態とは? 働き方の選択肢が増えた今だからこそ、暮らしと仕事の最適なバランスを考えたいものです。2022年12月に、ご自身のアクセサリーブランド『TOUROU』も立ち上げたはるかさん。一児の母でありながら、柔軟に表現を続けるはるかさんにとっての「働く」とは?
自分の「好き」を仕事にしたい
私が所属していたのは日系大手の航空会社です。成田空港の国際線の方で、よく「飛んでるんですか?」と聞かれるのですが飛んではいなくて(笑)、地上スタッフの一員として税関などの業務を担当していました。
それは何年間くらいされていたんですか?
大学新卒で入社して、1〜2年くらいでスパッと退社して、そこから今のPRの仕事の下積みが始まりました。
私たちの世代としては、航空業界に入るってかなり「花形」だと思うんですが…?
そうですね、辞める時は、私自身はあまり悩まなかったのですが、やはり周りからは「えっ?!」という声をたくさんいただきました。私が航空業界に入った理由は、英文学科で英語を勉強していたのと、旅が好きということで選んだのですが、大学時代にずっとファッション業界で販売のアルバイトをさせていただいて、洋服や雑誌を見るのがとにかく大好きだったんです。社会人になってからも、お休みの日はそういうことに時間を費やしていました。航空業界の同期は熱量が非常に高い子が多くて、お休みの日でも飛行機を見たり、空を飛んでいる飛行機を見て「あれはボーイング○○だ」とか、“好き”を仕事にしている人が圧倒的に多かったんです。「自分の会社が大好き!」という人が多かった。それはとても強い気持ちだし、私も感化されて、私の好きなことはファッション広告だったので、「私も“好き”を仕事にしてみたい!」という思いが自然と培われた感じはあります。
フリーランスPRだからこそ持ちうる「客観性」が強み
“好き”を仕事に。言われなくてもやっちゃうこと、みたいなものは誰もが一つは持っているのかもしれないですね。実際に航空業界を離れて、PRの下積みが始まったということですが、この「フリーランスPR」というのは具体的にはどんなお仕事なんですか?
PRという仕事を分かりやすく言うと、企業や商品、人などを世の中に認知してもらうための仕事です。PRの仕事は幅広くて、広告をつくること、人に触れてもらう場所をつくること、メディアにアプローチすることなど、いろいろなジャンルがあります。私がやっているのは企業、ブランド、商品、コトの「良さ」を引き出して、それをいかに世の中に広めて認知度を高めていくかという所を支援させていただいています。広めるためには視覚的に訴えるビジュアル、いわゆる広告ポスターのようなビジュアルやカタログ、ホームページ、SNSを一緒につくり、そこからアプローチしていく場合もありますし、メディアに情報を紹介して掲載していただくお手伝いをする場合もあります。
実際に下積みから数えると、何年くらいPRのお仕事に携わっていらっしゃるんですか?
14年くらいになります。
長いですね!
フリーランスになったのは最近なんですが、PR業界に入った時から考えると、そのくらいの期間になりますね。
このPRというお仕事のやりがいはどんなことなんですか?
やはりPRした対象の認知度が高まって、クライアントさんから感謝の言葉をいただくと、本当に純粋に「良かった!少しは役に立てたかな」と、うれしい気持ちになります。
全ての人・モノ・コトが唯一無二であると思うのですが、自分でも気がついていない魅力を見つける作業というのも、クライアントさんとご一緒にされたりするんですか?
していますね。私が「フリーランス」という働き方を選んだメリットがそこにあると思っていて、フリーランスの立場ですと、客観的に見る目を持つことができると感じています。やはり一つの企業に属していると、特徴的なことがいつの間にか当たり前のことになってしまいがちで、私から見ると「それを毎日されているのはすごいな!」「その商品にもっと自信を持って伝えた方がいい。世の中のためになってる」「そこまでこだわっているんだ!」などという発見が本当にたくさんあるんです。でも長くその組織に所属していると、それが大したことではないように思い込んでしまうので、「それは非常に素敵な特徴なので、世の中にもっと知っていただきたいです」などとお話しして、PRするポイントを見つけていきます。そういう客観的な目を持って見ることができるのが、フリーランスPRの特権ではないかと思います。
フリーランスは子育て中の自分に最適な働き方
すごい! 納得します。フリーランスの良さに「客観性」というものがあるんだということに、私は初めて気がつきました。フリーランスと言いますと、イメージとしては、働く時間を自分で配分できたり、仕事の幅や領域なども自分から選び取れたりするのがメリットかなと想像しますが、そういう「働き方」という点ではいかがですか?
やはりフリーランスという働き方にすると、自分で仕事の時間を決められるので、自由に柔軟に対応できるのが大きな魅力ではあります。都心に行く時間も選べますし、息子と向き合う時間も大切にしたいと思うと、昼間は一緒に遊んで寝かしつけてから夜に仕事をする、というような柔軟な働き方ができる点はメリットですね。
一方で、難しさは感じていますか?
良くも悪くも「一人」なので、褒めてくれる人もいなければ叱ってくれる人もいない(笑)。正直、「大丈夫かな?自分」と思う瞬間は、自由だからこそあったりします。でも、今の私にはこの働き方が合っているのかなと思っています。
迷いが生まれた時に、はるかさんはどうやってそれを解消したり、対処したりしているんですか?
そうですね、私の周りには今、会社員を経てフリーランスという方が同世代でわりと増えているので、相談したりしますね。あとは主人が同業に近い仕事をしていて、私の仕事内容も分かってくれるので、けっこう聞き役になってくれて助かっています(笑)。
時間配分という話で言うと、女性にまつわるいろんな生活の要素がありますよね。特に私たちは今「子育て」が大きなポイントになってくると思いますが、結婚・出産・育児などの女性ならではのライフステージとしては、今の働き方はいかがですか?
まだうちは子どもが小さいので、今はこの働き方がベストだと感じています。例えば子どもが急に熱を出したりした時に、会社の人に迷惑がかかっちゃうという気持ちは誰でも持ってしまうと思います。もちろんフリーランスの場合も、打ち合わせなどが入っていたらそれをキャンセルしなければいけないこともありますが、一人でやっているからこそ、自分で責任を持つ、つまり自分で全て決められるので、息子のそばにいたいと思えば自分の意志でその時間をつくりやすいというのはメリットだと思います。
ところで、はるかさんのプロフィールを見ていて「星空(準)案内人」というのが出ていたんですが、これって何ですか(笑)?
別名「星のソムリエ」なんですけど(笑)。そういう資格があって、これは本当に趣味なんですが、小さい頃からわりと星空を見上げるのがただただ好きで、天文学的な所も少し気になっていたので、コロナ前くらいこの資格を取りました。息子と星空を見上げた時に、「あの星は何でオレンジ色に光ってるの?」という質問に答えてあげられるだけでも私の中ではとてもプラスになっていて、それをきっかけに息子や近所の子どもたちが星空に興味を持ってくれることが、私の小さな喜びになっています。
PRから派生して、伝統工芸に新たなまなざしを向けブランド化
新しいブランドを自ら立ち上げたそうですね?
そうですね、決意をして、2年くらい前から準備を始めていました。伝統工芸品にフォーカスし、現代でも使いやすい商品をつくっていくブランドです。このブランドの目的の一つは、伝統工芸品をもっと身近に感じていただくこと。日本のものづくりや美しい物の素晴らしさを感じていただく瞬間をつくっていきたいという思いから立ち上げています。
元々海外もお好きで英語を学んだり、旅や海外交流もお好きだということでしたが、その中で行き着いた先が今、「日本の魅力」ということですよね。これまでは、自分ではない誰かの人・モノ・コトの魅力を探しながら、それをPR、認知してもらう活動をされてきた中で、いかがですか? ご自身のブランドが立ち上がったというのは。
私のこのブランドは、日本に元々ある美しい伝統工芸品を、現代でも身近に感じて身につけてほしいというコンセプトがあるので、大きく見るとPRの一環でもあると思っています。私が今やろうとしているのが、秋田の銀線細工というものを使ったジュエリーの展開です。秋田の銀線細工は地元でも知らない人がいて、素晴らしい技術なのですが若い人ほど知らなくて、全国区になると圧倒的に知らない人の方が多いです。でも私はとても素敵なものだと思うので、「どうしてもっとこれを世に広めないんだろう?」という思いが強い。それを私が微力ながら今までやってきたPRの仕事の延長線上で、「何か地元のためにできることはないか?」と考えた時に、地元の良い物や日本の良い物を自分の目線で発見して、それを世に広めるお手伝いができたらと。そこで自分のブランドを立ち上げて、世界観を職人さんと一緒につくって行くのが良さそうだと思うに至りました。ですから全体を俯瞰して見ると、PRの一環なのではないかと思っています。地方創生と言うとおこがましいですが、そのような気持ちを持ってやっています。
元々物があって、その魅力を探し当てるのと、ものづくりから一緒にやっていくのと、プロセスの違いは何か感じていらっしゃいますか?
それはすごく感じます。やはり元々物があって、その物に魅了されて魅力を広めていくという仕事をしてきたので、自らブランドをゼロからつくるにあたっては不安と葛藤が出てきました。構想に2年かかっているのですが、最初は何となく「これ、いいじゃん!」みたいな勢いで進めていたのが、時間が経つにつれ、物が出来上がるにつれ、「本当にこれは素敵かしら?」「みなさまに認知してもらえるのかしら?」という不安も大きくなりました。ものづくりをしている人や、何かを自分自身でゼロから生み出している人が、どんな気持ちで取り組んでいるのかを体感することができました。
実際に物をつくる側の経験を今なさっているということなんですね。銀線細工ってどんなものなんですか?
0.2mmくらいの細いシルバーの線をつなぎ合わせた、たとえるなら「レースを銀でつくる」というようなものです。銀線細工は江戸時代から続いている工芸で、かんざしなどの花嫁の装飾品や、武士の武装の装飾などをつくっていたのが始まりです。本当に細かくきれいな作業なんですよね。
時代時代でいろんな用途で受け継がれてきた物なんですね。はるかさんのブランドにおいてはどのようにアレンジされているんでしょうか?
私がつくる銀線細工を使ったジュエリーは、若い方から成熟した大人の方まで、年代を問わずみなさんにつけていただきたいという思いがあります。現代の方でもオシャレを楽しみながらつけられるように、工芸品を買うというよりは、もっと気軽に普通にジュエリーを買う感覚で買っていただけるような物に落とし込んでいます。伝統工芸品という日本のものづくりの良さを、日常的に身につけて感じていただけるようなデザインにしています。
自分のライフに一体化する、自然体の「働く」
まさに今、立ち上げたスタート地点ですね。これからどのように育てていきたいと思っていらっしゃいますか?
この銀線細工のジュエリーブランドは核として続けていきますが、他にも全国的に知られていない工芸品や日本の美しい物がまだまだ本当はあるんじゃないかと思っているので、それを地道にゆっくり探しながら、違う工芸品の商品も展開していけたらと思っています。
PRになりたての頃は、その業界の知識やトレンドなどPRについての勉強を積極的にしていましたが、最近は、全ては感受性豊かに過ごすことや、そのクライアントさんの第一のファンになることが最も大切だと思っています。そうするためには、自分の受け取り方がフラットで柔らかであることが重要だと感じているので、日頃から人の話をしっかり聞くことを意識していますし、感受性豊かにフラットな視点で過ごすことにおいては、この湘南や鎌倉の地に引っ越してきて、さらに磨かれた所があります。やはりこの土地は景色もきれいだし、頑張っている人もたくさんいて、いろんな分野や業界の話を聞ける機会があるので、そういうインプットの中で感じることが多い町だと思います。
それから子どもの存在も大きくて、まだ小さいので本当に素直で感受性豊かなんですよね。だから一緒に歩いているだけでも、ただの石ころでさえ「このフォルムかわいいね」って思えるのはすごく良いことだと思っています。一緒に生活している中で自分では見つけられなかったことを見つけて、それを一緒に喜んだり楽しんだり悲しんだりするだけで、自分がとてもフラットに、感受性豊かに生きられる。この町や家族や暮らし方に身を投じているだけで磨かれているんじゃないかと思っています。
最後になりますが、はるかさんにとって「働く」ってどんなことでしょうか?
私の中では、「働く」ことは「生活の一部」です。若い頃は仕事と暮らし、仕事の時間とプライベートの時間をはっきり分けていたこともありましたが、今はこの地に住んで、子育てをして、働いて、暮らして、家事をして…というのが全て一つにつながっている感覚があります。働いているようで暮らしていて、暮らしているようで働いている、みたいな感覚をフリーランスになってから特に強く感じます。ですから「働く」ということは、自分の中で「生活の一部」だし、「自分のライフワークの中の一つ」にすぎないし、「ライフワークと一体である」という感覚でもあります。
& Column
人生をデザインする視点と、それを超えていく流動性
経済成長期に存在していたみんなの最大公約数的な「幸せの形」が、社会構造の崩壊と共に失われて久しいですが、その後に続く新時代の明快な幸せのモデルはいまだ定義されていません。今のところ画一的な形は確立されておらず、「幸せの形は人それぞれ」という考え方が一応の結論のようです。これをさらにもう一段階、自分に引きつけて考えるなら、「自分にとっての幸せの形をデザインし、その実現を目指す」という姿勢が生き方の指針となるでしょう。一説によると、幸せとは「人生の各分野で自分の望む状態を手に入れること」だそうです。つまりは、例えば「仕事(適性、働き方、報酬、精神的充実等含む)」「経済」「家庭やパートナー」「人間関係」「趣味・遊び」「ライフスタイル(衣食住等)」「健康」など、自分にとって重要な人生を構成する分野がそれぞれどのような状態であることが自分にとって望ましいのかを、一人一人が描く必要があるということ。それが無い場合、私たちは眠りと不安の中に生きる「人生の漂流者」となってしまいます。はるかさんから感じるしなやかな柔らかさは、世の中の大きな流れと、自身の人生の流れという2つの流れを重ね合わせ、その中で自分がどのように身を委ね、どこへ泳いでいくのかを、その都度、自然体のうちに選び取っている所から発せられているものかも知れません。自分独自の幸せのデザインを描くことと同等以上に重要なのは、その実現のために実際に行動しながら、常にデザインも自分の動きも最適化し続けていくこと。「漂流者」とは明らかに一線を画すその流動性の美しさを、私ははるかさんに見るのです。「ワーク」と「ライフ」を二項対立でバランスするのではなく、「ワークアズライフ」として一体化させること。よく言われる「幸せな働き方」の形の一つではあるかもしれませんが、その中に身を置いたあなたは本当に「幸せ」を感じられるでしょうか? はるかさんの働く形・生きる形は彼女の自然の「結果」であって、「ワークアズライフ」というプロトタイプを目指して頑張る姿ではないことを、よく見る必要がありそうです。(森田マイコ)
今回のゲスト
小松はるか(こまつはるか)さん
フリーランスPR。ビジュアル・ディレクター&コーディネーター。星空(準)案内人。大学卒業後、航空会社勤務を経てファッションPRの道へ。約10年に渡り複数の企業、ブランドのPR担当として経験を積み、2019年、出産・育児を機に独立、フリーランスとなる。2022年12月、自身が伝統工芸の職人と共に開発したジュエリーブランド『TOUROU』をリリース。
Instagram▶ https://www.instagram.com/p/Ck-zjubSTAZ/?hl=ja
Website▶︎ 日本伝統工芸のモダニズムをテーマとしたジュエリーブランド『TOUROU』https://www.instagram.com/tourou_japan/?hl=ja