今回のゲストは、茅ヶ崎でサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現を目指す株式会社アップサイクルジャパン代表取締役社長 西村正行さんです。物や情報が飽和する現代、「豊かさの定義」は確実に変容しています。近年注目されている“アップサイクル”は、新たな豊かさの価値観とどのようにリンクしているのでしょうか。「もったいない」を超える、アップサイクルの新たな可能性とは?
捨てられてしまう物を集めて
本当に素晴らしい場所ですね。
木材、廃材…温かい雰囲気に囲まれながらの放送ですね、今日は。
今日は茅ヶ崎市堤にあるアップサイクルジャパンにお邪魔しています。この場所は一般のお客様も訪れることができるんですか?
はい、大丈夫です。
店内に並んでいる古材なども常時購入が可能ということですか?
はい。購入していただけます。
へぇー、かっこいいですねぇ! ここにある物は全国津々浦々を駆け回って集めている、という感じでしょうか?
いえ、この地域のものです。僕が取りに行ける範囲の物ですね。持って来てくださるケースもあります。いらないので引き取ってくれませんか、って。
なるほど。
ふつうならこのままだと使われなくなってしまうという物が、集まってきているということですよね。
そうです。
それがこんなにかっこよく生まれ変わるんですね。
いやぁ、かっこいいですよねぇ! 全部かっこいいです。このかっこよさがどこから来ているのか、今日は伺っていきたいと思います。
建築現場の端材でつくった物が最高に喜ばれた体験
西村さんのご出身は山口県だそうですね。そして座間で育った、ということですが…。
そうです。そして独立を機に湘南へ引っ越してきたんです。あまり上手ではないですが当時はサーフィンをやっていて、茅ヶ崎や辻堂に来る機会がわりと多く、こちらのコミュニティともつながりがあったので。当時は、敬遠とまではいかないですが、変なヤツ扱いされていたんですよ、こういう廃材で何かつくることって(笑)。
どのくらい前ですか?
7年ぐらい前ですね。知り合いからも「ゴミ集めて何やってんの」みたいな感じで見られていて。お客様もわりと湘南寄りだったんですよ、圏央エリアの方はあまりいなくて。だから独立するんだったら湘南の方が良いだろうなと。
雑貨をつくり始めた時点では「アップサイクルやるぞ〜!」というイメージではなかったんでしょうか?
全然。ものづくりを始めたのは大工の時です。18歳の時に大工に弟子入りしたんですが、建築の業界って、切れ端とか余りが出るのが大前提のものづくりをしているんです。材料には規格があって、1.8mとか2mとか4mとか決まっているんですね。それは材料の製造コストを抑えるためです。でも、例えば1.8mの材料だけど現場では1mしか使わない場合に、残りの80cmはゴミになってしまう。それがもったいなさすぎて。その端材を、まだ弟子1年目だった僕は、切ったり、ノミで削ったりということの練習のためにもらってきていたんです。5時になって仕事が終わった後は工場を使っていいということだったので、現場で余った材料で練習するということを1〜2年ずっとやっていました。それが「廃材を使ったものづくり」の始まりです。
原点だ。
ある時、居酒屋さんの店舗をつくる現場で出た廃材でいろんなものをつくったんですが、ティッシュを入れる箱がすごく良いのができたんですよ。18歳当時、ガラケーだったので写真も残ってないですが(笑)
時代感じる!(笑)
それを居酒屋さんがオープンの時に持って行ったら、最高に喜ばれて。「捨てられる物だったのに、こんなに喜んでもらえるんだ」というのが強く記憶に残ったんです。
そこで体験したんですね。
空間をつくる時に、そんなに廃材が出るということが、わりと一般的なことなんですか?
一般的です。知られていませんが、建築業界ではいまだに何の疑いもなく材料を余らせて、捨てている。そうしないとうまく行かないんですよ。「材料が足りなかったから工期1週間延ばしてください」と言っても、お客さんはOKしてくれませんよね。
そうですよね、だから「どうしようもなく」ということなんでしょうね。でも、その違和感を18歳の西村さんが感じ取ったというところがポイントですよね。
当たり前とされている方へ染まって行かなかった。
そうですね。もともと何に対しても反発心みたいなものがあるので(笑)、「当たり前だとされてるからって、なんでそんなことしてるんだろう?」と。
「もっと良いやり方があるんじゃないか?」みたいな。
目の前にある「もったいない」が放って置けない
7年前から前身である「PEACE CRAFT」を始められて、アップサイクルジャパンを設立したのはいつ頃なんですか?
2018年です。始めるきっかけは2017年で、このフリーマガジン『UPCYCLE』の創刊号で紹介している2人との出会いがきっかけです。清水あおいくんは、当時うちが人手不足でアルバイトを募集していたところへ応募してきてくれて、面接で話していたら「デニムで時計をつくってます」と。で、デニムでダルマもつくり出したんですよ。それで「ちょっと待って。うちで働くより、このダルマを推していった方がいいよ!」って(笑)。全面的に応援するし、こんな素晴らしいものを世に出さなきゃダメだって。
ちょうど同じタイミングでKai’s Kitchenの甲斐くんは、辻堂で、昼間はカフェをやっていて夜は営業していないお店の、金曜と土曜の夜の時間帯だけ借りて、会社員をやりながらレストランを始めたんです。そこに食べに行ったら衝撃的で。「実はこの魚、全部捨てられる魚なんですよ。誰にも相手にされない魚だけを使って料理をつくってるんです」と言うんです。例えばアジやサバは市場でメジャーな魚ですが、そうじゃない魚が網にかかって水揚げされても、魚屋さんでもスーパーでも売れないから、仕入れる人も買わない。だから漁師の方が捨てちゃうんですって。彼はそこに着目して、それだけを仕入れてやっているんです。
ちょうどアップサイクルジャパンを設立するタイミングでこの2人と出会ったんですね。あおいくんは衣類のアップサイクル、甲斐くんは食のアップサイクル。僕はアップサイクルで住空間をつくっている。「アップサイクル」という言葉も2017年ぐらいに使い始めたんですが、「木だけじゃないぞ、いろんなものがアップサイクルできるじゃないか。この3人が集まったら、他にもアップサイクルできるものがいろいろあるんじゃないか? 日本を揺るがすようなことが巻き起こせるんじゃないか」というシンプルな思いから、じゃあ「アップサイクルジャパン」にしようって。
まっすぐ…!
「ジャパン」付けようって。
3人の共通項だったわけですね、「アップサイクル」というものが。面白いですね! その3人の出会いから始まったわけですね。
そうです。この2人と出会って、何かムーブメントを起こせるなと。その半年後にイベントを打つんですが、半年間かけて準備して、日本全国でアップサイクルをしている人たちに声を掛けて10ブランドくらい集め、翌年の2018年の夏に茅ヶ崎で1日だけスペースを借りて、いろんなアップサイクルショップを並べて販売をしたんです。その時のお客さんが反応が、僕らが驚くほど感動してくれて。これはちょっと本腰を入れようかなということになって。
同じように疑問を感じていた人がいたんでしょうかね。
イベントに参加している人たちはみんな「アップサイクル」という言葉を知らないんですよ。しかも環境のことなんて何も考えていない。僕も最初は全く興味がなかった。動機は何かと言ったら「もったいない」なんです。デニムを捨てる=もったいない。魚を捨てる=もったいない。その「もったいない」なんですよね。
「俺は環境にいいことをしてるぜ!」とかではなかったんですね。それが良いよね、なんか。
目の前に誰しもあるかもしれないですよね、もったいないと思えるものが。そう思うと面白いですね。
もったいないからと当然のようにやっていたことを、3人集まって世の中に出してみたら、思った以上に共感が集まったんですね。
価値を高めることが一つの技術
「豊かさの定義」という話で言うと、例えばハイブランドのバッグ。まさに僕が18歳の頃はそういうバッグが憧れの存在でしたが、いつしか僕自身があまりそういうものに価値を感じなくなった時に、廃デニムでつくってくれた携帯のカバーとか、廃材でつくった時計を身につけるようになった。「これ、かっこいいじゃん」って。ブランドでも何でもない、しかもけっこう安い物。でもそれに共感してもらえることがすごく増えてきて。圏央に住んでいる7年前は「ゴミを身につけている変わった奴」だったけど、多くの人に共感してもらえるようになった。
僕らがつくっている物だけじゃなくて、みんながアップサイクルして発信している物にも共感が集まる時代になっているから、「心の豊かさ」ということで言うと、自分のほしい物が完成するまでに辿ってきたストーリー、そういうことに価値を感じる方がすごく増えているんじゃないかなと思います。
もったいないから、かっこよくして使った。それを変わらずにやり続けてきたら、仲間もたくさんできたわけですね。
確かに時代背景がちょうど変わったということも、もしかしたら何かの縁だったのかもしれないですしね。
「価値を高める」というのが、一つの技術ということですよね。価値がないと思われている物に、価値を付け加えてもっと価値の高い物にする。
アップサイクルで利益を上げることで環境にも貢献する
これからどうしていきたいみたいなことって、あるんですか?
大きな目標で言うと、僕らがこういうフリーマガジンで全国に発信している理由でもあるんですが、僕らの活動の動機は「環境に配慮してます、環境に良いです」ということではなかったのですが、やってみたら「環境にとって良いよね、地球にとって一つでも良いことできてるよね」ということに気がついたわけです。そうなった時に、そういう意味での発信をしていかなきゃいけないんじゃないかなと思うに至りました。
例えばこの一輪挿しを一つ買っていただくことで、地球温暖化は止められない。一つじゃ止められないんですけど、これを買っていただいたことで、その方はゴミを一つ減らしたんです。そういうことをお伝えしていくことで、じゃあ次の自分の行動を考えてみようというきっかけになってくれたら最高だなと。
一つゴミが減っただけでは、地球の温度を1℃も下げられない。0.1℃も下げられないんだけど、日本全国、世界中の人たちが一つずつゴミを減らしただけで相当なインパクトになるわけです。そのきっかけをつくれたらいいなと思っています。
大きな目標としては、人々が物やサービスを購入する選択肢の一つに、アップサイクルされた商品やサービスが当たり前のように入れられたら、地球の温度も下げることができるんじゃないか、海面の上昇も抑えられるんじゃないかと思うんです。大きな話ですよ。僕らは環境活動家でもないですし。でもそういうきっかけがつくれたらいいなと考えています。
その上で、僕らはボランティアではなくてそれを仕事にしているので、この活動でちゃんと飯が食えて、購入する方にとっても高すぎない買い物で、持続可能なものにしていきたい。僕らが思っている「持続可能」「サステナブル」というのは「継続」していかないといけないもののことです。
継続していくには、ちゃんと対価をいただいて、商売として成り立つ形にする必要があります。みなさんに買い物をするときの考え方をちょっと変えてもらって、アップサイクルの商品を買っていただくことで僕らも継続して営業していける。そういう意味での持続可能性ということも発信していけたらと思っています。
何か良いことしてるからボランティアでいいとか、安くていいということではないんだよと。それは僕らも違う業界ですが同じように思っていることで、それをちゃんと西村さんのようにアップサイクルジャパンという株式会社にしているのは、実はすごいことじゃないかなと思うんですよね。
自身の向上というか、良い物、かっこいい物をつくって提供することで自分たちは食べていくし、みんなも良くなるんだよっていう…すごいかっこいいですね! しびれる。
発信がなかなかできないアーティストさんもいる中で、西村さんがそれをつないでプラットフォームとして発信しているのも、素晴らしい取り組みですよね。
2018年に本腰を入れてこの活動をやっていこうと決めた時に、組織の形態をいろいろ考えたんです。お金を稼がないとこのアップサイクルは継続していけないから、「僕らはボランティアじゃないです、これで飯を食ってます、だから利益を出す必要があります」ということを公言するために、株式会社にしたんです。堂々とちゃんと稼いで、その利益で次のアップサイクルをしますということをどんどん発信しようと。
潔い。かっこいいです。僕ら購入させてもらう側も、先程西村さんが言った通りで、自分自身が思う「本当に良い物とはどんな物か」という基準をまず設けることと、そして、それと同じレベルで、一つ買ったらこれで一つゴミが減るんじゃないかというアップサイクルの感覚も持つ。それが当たり前の世の中になっていくと、何かが変わっていくような気がします。
購入する側の意識の変容も必要ですね。ありがとうございました。震えました。
今回のゲスト
西村正行(にしむらまさゆき)さん
株式会社アップサイクルジャパン 代表取締役社長。山口県生まれ。18歳から大工として建築現場で働く傍ら、端材や廃材を使ったものづくりを始める。2013年にアップサイクル・ブランド「PEACE CRAFT」を開始し、仲間との出会いを経て2018年に株式会社アップサイクルジャパンを設立。古くなったモノや捨てられるモノに、その道のプロが新たな価値を与えて息吹を吹き込む「アップサイクル」を通じて、持続可能な社会や環境、循環型経済の実現を目指している。
UPCYCLE JAPAN https://www.upcycle.co.jp/