今回のゲストは、キャリアコンサルタントの中村容さんです。勤務する大学で就職支援業務に携わったのをきっかけに、キャリア・コンサルタントや産業カウンセラーの資格を取得し、さらには社会人大学院で経営学(キャリアデザイン学専攻)修士課程を修了。キャリアデザインの魅力にはまり、現在はライフ・キャリアデザインを支援する仕組みづくりや場づくりも実践されています。先が読めない時代に、どう暮らし、どう働くか。そして、これからの「キャリア」とは?
自分の経験則や価値観だけのキャリア指導に危機感をおぼえて
今日はキャリアコンサルタントの中村容さんにお越しいただいています。「キャリアコンサルタント」ってかっこいいですね!
ただの資格の名前です(笑)。そう言うと多くの人がなんとなくイメージしてもらえるかなっていうぐらいのものです。
まずは中村さんご自身の自己紹介からお願いできますか?
はい。鎌倉に住んでいて、もう15年ぐらいになるのかな、本業は大学の職員をやっているのですが、茅ヶ崎に大学があって、そこに通える範囲ということで。僕がキャリアコンサルタントという資格を取ってそれに関わる活動を始めたきっかけは、大学で学生の就職支援の部署に配属されたことです。就職支援の部署に初めて行った時に、その人の経験則とか価値観だけで指導をしまうと、相談に来た学生はみるみるうちに下を向いていって口数が少なくなるのを目の当たりにして。これは学生の将来に関わることだから、しっかり専門的に勉強して業務にあたらないと大変なことになると思い、勉強を始めました。
それで門戸を叩いたのは何の分野になるんですか?
キャリアに関する専門的な知識をつけたくて、当時出始めていた「キャリアコンサルタント」、初期は「キャリアカウンセラー」とも呼ばれていたんですが、その資格を学べるコースがあったので、それを勉強し始めたらはまっちゃったんですね。
その領域の何が楽しかったですか?
まず世の中のことをしっかり知らないといけない。それから、その人の内面についてもしっかり考えなくちゃいけない。自分の価値観じゃなくて、その人が何を大事にしているのかに気持ちを向けなくちゃいけないし、人の成長に関わることなので、教育的なこともしっかり分かってなくちゃいけない。ということで学問分野で言うと教育学と心理学と経営学、3つの領域にまたがっていることを勉強するのがすごく面白くて。で、やっているうちに「もっと専門性を高めなきゃ」という、自分がそんなに勉強好きだとは思っていなかったんですが、その分野に関しては「まだまだ足りない」という思いがどんどん湧いてきて、「これはもしかしたら、自分の一生の仕事にしてもいいかな」と思える仕事に出会えた。
最初に取ったのは「キャリアコンサルタント」という資格で、もう少し深めなくちゃいけないと思い、よりカウンセリングの分野を学べる「産業カウンセラー」の資格を取りました。働く現場でメンタルをしっかり支えていくような仕事ができる資格です。それでも何か足りなくて、働きながら大学院へ行って「キャリアデザイン学」を学んで、そこまでやったら少しは何か自分でできるかなと感じることができました。
若い世代は直感的に「正解がない」ことを知っている
それを経て今、中村さんは「まちのキャリアデザインマスター」と名乗っていらっしゃるんですね。とはいえ、今は先が読めない時代と言われているじゃないですか。以前は、いわゆる画一的な指針があって、こう進めば良いという、それなりに自信を持って前に進める時代だった気がするんです、私たちの世代は。私自身はそれに乗れなかったですけど(笑)
こういうのが成功ルートだよ、という。
はい。「しっかりと学歴というものを積み重ねれば、こういう未来が待ってますよ」という安心感の下で進めた時代もありました。でも、今は違いますよね。
違いますよね。おっしゃる通り「VUCA」と言われている時代だから、本当にいろんなことの変動性が高くて、曖昧だったり、複雑だったり、先が本当に読めないという中で、簡単に言うと「正解がない時代」ですよね。若い人たちは特にそうかもしれないし、僕らぐらいの中年世代もそうかもしれないけれども、なかなか1人で「これでいいんじゃない」と思って過ごせなかったり、迷ったりということがとても多くなってきていると思います。だからこそ、なおさらキャリアコンサルタントという、何かあった時に寄り添える立場の人が世の中にたくさんいたら、みんなが少し安心できるのかなという気はします。
今の若い方たちは、私にとっては「頼れるなー」っていう印象があって。自分たちで情報をキャッチする能力にも長けていていますし。実際、中村さんは学生の方々と毎日のように触れ合っていらっしゃると思うんですが、最近の若い方たちにどんな印象を持たれていますか?
やはりもう直感的に「正解がない」ということには気がついていて、わざわざ大人が分かったふうに「これからは正解のない時代だから」と言わなくたって、もう既に分かっている感じがしています。僕らみたいな中年の方が分かってないのかもしれません。学生と接していると、その「直感的に分かっている」ことに対してのリスペクトはすごく感じますよね。
確かに若い方に「たくましさ」を感じていたんですけど、そういうところかもしれないですね。
はい、たくましいなと思いますね。
もうガチガチの正解のある時代で過ごしてきた人からすると、何か頼りなさそうに見えたり、きちんと目標・目的を持っていないみたいに、批判的に見ちゃう中年の方が多いとよく言われていますが、この曖昧な時代の中でたくましく生きていくために、あえてそういうスタンスを取っている若い人たちの良さが分かりづらいんだろうなって。
世代によってキャリアの考え方はイメージが全然違う気がするんです。中村さんが目の前に座った方とキャリアについて一緒に考える時って、まずはどんな問いを立てるんですか?
そうですね、一つは、特に若い人たちが面白がってやってくれるんですけど、例えば小松さんに質問させていただきます。ずっと若い頃に記憶を遡っていって、いちばん若い頃、小さい子どもの頃まで遡って、架空の人物でもいいんですけど「憧れた人」を3人挙げてみてください。
憧れた人3人?! まずは幼稚園のまさこ先生。あと誰だろうな、小学校の時の理科の先生。けっこう先生が多いですね。あと誰だろう?
小説とか漫画とかテレビアニメの主人公とかでもいいんです。
アラレちゃん! 昭和~(笑)
(笑)とりあえずその3人にしたとして、もう一つ考えていただきたいのが、その3人に共通するところ。無理やり考えたら、何か出てきますか?
共通するところは、もうとにかく「ワクワクをくれる人」っていう感じですね。
なるほど。じゃあ今度は今の自分を見つめた時に、ワクワクさせる人になれている気がしますか?
なれているかもしれません。
素晴らしい。それって一つのキャリアじゃないかなと思うんですね。今、できるだけ若い頃、小さい頃まで記憶を遡ってもらったのは、小学生の高学年や中学生になってくると、学校の教育や親の価値観のバイアスがかかってきて、憧れの人が本当に自分の憧れなのか、周りの大人が「あの人素敵よね、ああなるといいわよね」って言われてきたことが、いつの間にか自分の憧れになっていたんじゃないかってことにドキッとしませんか、みたいなことがあったりする。そういうバイアスがかからない、できるだけ遡った時に、単純にかっこいいなとか素敵だなと思った人が、本当に自分がなりたい姿である可能性が高い。就職どうしようとか、これからどうしようという時に、いったん純粋に自分がなりたい姿が何だったのかもう1回考えてみよう、みたいなことで話を始めたりするんですよね。
今の小松さんの、「人をワクワクさせる」ということが3人に共通していて、今の自分がもしかしたらそうなれているかもというのは、幸せなキャリアかもしれない。
すごい! ゾワゾワ~ッとしました。でも確かに、ここに来るまでの道のりがありましたし、けっこう右往左往していますので、それも含めてキャリアだと。
うんうん。だから意識はしていなかったかもしれないけれど、右往左往しながらも、最終的にそこに自分でしっかり向かって行っている中での回り道・通り道で、それがあったからこそ近づけたかもしれない。
本当にそうですね。寄り道いっぱいしたからこそ、いろんなことを経験して総合的に今の場所があると思っています。
「キャリア」とは、どう在りたいかに向かう成長プロセス
私、「キャリア」という言葉のイメージが、仕事のイメージしかなかったんですよ。今日改めて、この「キャリア」ってどういう意味だろうって。
もともと「キャリエール」というフランス語で、「競馬場のコース」のことを言うんです。「轍」などという意味があるものなので、割と日本的な考え方だと、後ろを振り返って、これまでこういうキャリアで来ました、みたいな過去のことを指すイメージがあるんですけど、そうじゃなくて、未来に向かって進んでいくものまでも含めて「キャリア」という捉え方をするので、決して後ろにある歩んできたものじゃなくて、これから自分がどういう道をつくっていくかということです。最近でいう「キャリアデザイン」も、自分の人生の辿っていく先のつくり方なんです。
なるほど。軌跡だけじゃなくて。
そう。それをレールに乗っかるんじゃなくて、自分でデザインしていくってことですよね。
「これから必要なキャリア」って、今のお話も踏まえた上でいかがでしょう?
誤解されちゃう可能性もあるんですけど、「どれだけ自分を変えられるか」という方向転換も含めてキャリアのゴールを定めない。少し前まで、キャリアのゴールを定めて目標を立てて、それに向かって努力しなさいみたいなことを言われていたんですけど、ゴールをつくっても、そのゴールがいきなりなくなっちゃう可能性あるわけです。その時どうするの?という話なので、ゴールは決めなくていいんじゃない?という話だと思うんですよね。
一つは最近言われている言葉で、大切なのは「doing」や「having」ではなく「being」だと。「自分がどうありたいか」というものを考えた上で、キャリアの選択をしていく。自分がどうありたいか、そのありたい自分とのギャップがどうなっているのか、ありたいところにより近づくために、今自分にできることは何なのか、という過ごし方をして、じゃあ10年後どうなっていたら自分が心地よくいられるのか、そこにたどり着くには何が必要なのかを考えながら、今の自分にできることや必要なものを集めながらデザインしていくというのが、おそらくこれからのキャリアになっていくのかなと思います。
「キャリアって何?」って言われた時に、定義じゃないですけど、もう一つは「社会と関わりを持つこと、社会と関わりを持って主体的に自分の役割を果たしていこうとする成長のプロセス」という説明の仕方をしています。
成長のプロセス…。まだ私達プロセスにいるんですね。
なんかいいよね、最終的な定義が「成長のプロセス」ってことですよね。
そうだと思うんですよ。そこがわりと置き去りにされがちで、成果とか、何をしてきたかという実績が評価されたり、自分の売りにしたりということがキャリアっぽく捉えられがちなんですが。もっと言うと、どういう職業についているかとか、どんな会社で働いているか、みたいなことに捉えられがちなんですが、本質的なところはそうではない。特に人生100年と言われている時代に、どれだけ自分が成長していけるかということにもつながってくると思います。その時に、好きなことだけやっているという話ともちょっと違って、やはり地域なども含めて、その中で自分がどんな役割を果たせるのかということにも目を向けながら、自分にできることを見つけて取り組んでいく。その取り組みが自分にとっても成長になると、それがキャリアなのかなという気がしています。
感動!
素晴らしい。
なんかもう可能性しか感じない。そっか、まだまだ私たちプロセスであり、これが結果でもなんでもなくて、ここから何でも選べるし、自分でデザインできるんだって思えます。希望ですよね。
キャリアというと実績や結果だと受け取られるんだけど、「成長するプロセス」だっていうのは、本当に目から鱗というか、温かい視点ですよね。藤沢市生涯学習大学の方では、『50代、小さく試すなら今。10年後の豊かな自分への助走』とか、ライフシフトセミナーっていうのも継続的にやられているそうですね。
はい。
「小さく試す」ってとてもいい言葉ですね。改めて意識していなかったところを意識させてもらえたような気がしますし、まずはシンプルな問いからみんな始めてみてほしいですね。動けるタイミングは、本当に人それぞれですもんね。
本当にそうだと思います。だから何か動き出さなくちゃいけないって思うこともないし、今やってないことで、できそうなことをまずちょっとやってみたらという。
そうじゃないと、例えばこの番組を聞いていただいて、ちょっとその気になったり、口車に乗りそうになっちゃってる人がいるかもしれないんですけど、それはその時の気分なので、気分に終わらせないためには何か今までやっていなかったアクションを起こしてみましょう、みたいなところから始めればいいのかなという気がします。
今回のゲスト
中村容(なかむらよう)さん
人生100年時代の働き方・在り方を探る学びの場「ライト・キャリア・ガーデン」代表。大学卒業後、CATV放送局で地域情報番組の制作に5年間従事。その後、大学事務局へ転職。勤務してから10年後に配属された部署で就職支援業務に携わったのがきっかけとなりキャリア支援の魅力にはまる。働きながらキャリア・コンサルタント、産業カウンセラーの資格を取得し、社会人大学院で経営学(キャリアデザイン学専攻)修士課程も修了。50歳を迎える頃からプライベートな時間をつかって、職業紹介でも人材ビジネスでもないライフ・キャリアデザインを支援する仕組みづくり、場づくりを目指して地域でパラレルキャリア、ポートフォリオ・ワークを実践中。 レゴ®シリアスプレイ®認定ファシリテーター、2030SDGsカードゲーム認定ファシリテーターとしてもワークショップを開催する。
webサイト▶︎ https://lightcareergarden.jimdofree.com/