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& Column
人材が流動する時代の個人と企業の良い関係とは
私たちはいつから直線的に正解や成功を求めるようになったのでしょうか? 長らく身を置いてきた学校教育の中で、あるいは加速する情報化やSNSの広がりの中で、常に比較検討し、リスクとリターンを天秤にかけて「コスパ」や「タイパ」を考える。そして最も効率よく、見栄えよく得たい結果を得ることに価値があり、それが正解や成功であるというふうに、繰り返し叩き込まれてしまったのかもしれません。まるでプログラミングされるように。
しかしそれは、予測不可能な時代に、決まった答えのない「人生」を歩むやり方としてはいささか脆弱な行動指針です。ましてや「人間関係」にもその態度を持ち込むならば、あなたの周りから思いやりや温かみのある関わりは消えていく一方でしょうし、喜びも困難も「味わう」という点においては等しく人間だからこそ持っている特権なのです。
世界15カ国に拠点を展開し、AIも含めブランドグロースに関わるあらゆることを事業領域としている急成長中の企業 AnyMind Group株式会社で人財や組織の開発に携わる松山和磨さんのお話によると、最近の若い世代が入社時に最も期待することは「成長と経験」だとか。そして、そこで得た成長と経験を携え、次の企業へ転職したり、独立したり、世界へ飛び出したりしていくのが、今の時代のスタンダードなキャリアの積み方となりつつあるようです。だとすると、企業は社員を抱え込めないことをある程度の前提として、成長と経験の場を与えることになります。
今その人が所属している場で、どのような得難い成長と経験ができるのか。単なるスキルアップやノウハウ、場数だけではない「質」。やがてその人の人間的厚みにつながるような本質的な成長と経験のための、松山さんの言葉を借りるなら「買ってもできない」機会を提供できる企業があるとしたら。
昔と違って個人が稼ぐ手段がふんだんにあるこの時代に、それでも所属してみたいと思わせる企業や組織の魅力とは、右肩上がりの数字の業績だけではないし、さらには企業が掲げるパーパスですらない、もっと人間一人ひとりに肉薄する何かなのかもしれません。例えばそれは、松山さんが人事に携わる前から、社内の悩める若手の話を、お酒を飲みながら聞いていたようなこと。人事スタッフとしてメンバーの話を聞きながらも、自分の本音や思いも熱く伝えるというようなこと。そんな松山さんにとっての「働く」とは、「人に感謝されること、それに努めること」だそうです。
「成長と経験」が、仕事上のそれという狭い意味ではなく、自分の精神性や器、調和や受け入れるということを学ぶ意味も含んだそれとして扱われることが、企業にとっても、働く人にとっても、鍵なのかもしれません。英国の詩人ジョン・キーツが優れた芸術家や詩人にとって大切な能力だとして提言した「ネガティブ・ケイパビリティ」、つまり困難や望み通りにすんなり行かないことに対峙した時に、即解決しようとするのではなく、むしろその状況に留まり、そこにいることができる能力は、何もかもが思い通りになるわけではない企業という「サンガ」の中でこそ育まれ、人間的成長と経験をもたらしてくれるとも考えられます。見栄えのいいサクセスストーリーではない自分の紆余曲折、そこに寄り添ってくれる人事担当者がいる企業ならなおのこと。その先に、互いに流動しながらも深い所から信頼し合い、良いご縁としてつながり続けられる、個人と企業との関係があるように思います。(森田マイコ)
今回のゲスト
松山 和磨(まつやま かずま)さん
AnyMind Group株式会社 人事・組織開発担当
1994年、京都府生まれ。鎌倉市在住。
関西学院大学を卒業後、森永乳業株式会社での勤務を経験。
2020年に東南アジア各国に拠点を置くAnyMind Group株式会社に転職。
EC物流事業の立ち上げに携わった後、組織人事チームに移り会社や従業員の成長のために日々組織戦略・開発と向き合っている。
湘南で海辺の生活を満喫しながらも、鎌倉と都内の通勤生活を行っており、湘南でのコミュニティの輪も広げている。