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& Column
「効率」よりも大切な「本物」
生きている手触りを求めて農業に転職していく人々を、幾人と見てきました。「効率」や「経済的合理性」を追求した先にあるのが「命の虚しさ」であるならば、「良い仕事」とは何かを私たちは生き物として考えねばならないようです。宮治さんは、父が生産した豚肉に「美味しい、また食べたい!」と感動していた友人の一言とは裏腹に、父から「継ぐことは求めていない。農家はきつい、汚い、カッコ悪いから」と言われたことに強烈な違和感を覚え、畜産農家を継ぎました。農業を「カッコよくて、感動があって、稼げる」ものにするという夢を掲げ、全国の多様な農家と15年以上も続けているNPOの活動を通じてつながりながら、人々の命に直結する「本物の食の生産」に誇りを持って取り組んでいます。地域密着の家業を継ぐということは、早く拡大していくことよりも、長く続けること、そこに在り続けることが使命です。苦労と喜びの中で自分の命を燃やし、本物の食で多くの人々の命に力を与え、地域と共に次の時代へその営みをつないでいく。高い視座から俯瞰して、そこに自分の人生の役割を置いた宮治さんにとっての「働く」とは、「生きること」そのものだそうです。そこまで言い切れるのはやはり家業、それも農業を我が身に引き受けた宮治さんだからこそ。私たちに学ぶことがあるとすれば、まず、自分の手掛ける仕事の中に「本物」があるかどうか、そこに敏感になることかもしれません。そして、もしかすると本当に、自分も何らかの形で「農」へのつながりを持ってみてもいいのかもしれません。そこには間違いなく「本物」、つまり「命の手触り」があるのですから。(森田マイコ)
今回のゲスト
宮治 勇輔 (みやじ ゆうすけ)さん
株式会社みやじ豚 代表取締役社長
1978年神奈川県藤沢市に養豚農家のこせがれとして生まれる。
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、(株)パソナ入社。「いつかは起業したい」との思いから、会社員時代は早朝の勉強が習慣に。実家の養豚業のことが頭から離れず農業の本を買いあさって読み続ける。
「一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にする!」との思いから、05年同社を退職。「まずは実家の養豚業を何とする」ために、収入月3万円のバーベキューで起業することを決意。そして、お客さんの声を直接聞き、価格の決定権を戻すという仕組みをつくる。(これまでの一次産業は生産から出荷までを農家が行い、どう流通して誰が食べているのかがわからなかった)
06年に父親から引き継いだ養豚業を法人化、株式会社みやじ豚を設立。同社代表取締役社長。友達や知り合いに声をかけて始まったバーベキューは口コミで広がり、現在では個人向けの直販だけでなく、「みやじ豚」は全国の高級レストランなどにも取引されるようになる。
(株)みやじ豚のほか、湘南で活躍する起業家らを支援するNPO法人湘南スタイルに参画、09年には就農間もない農家が自律するためのマーケティングとブランディングを支援する場としてNPO法人農家のこせがれネットワークを設立。同NPO代表理事CEOを務める。趣味は読書とバーベキュー。
株式会社みやじ豚 ▶ http://www.miyajibuta.com/