【鎌倉FM 第83回】「個」の時代、ローカルでどう生きる?新時代のリーダーシップ
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& Column
「個」の時代、ローカルでどう生きる?新時代のリーダーシップ
東京から鎌倉市腰越という人情味あふれる漁師町へ移住し、既存建物のリノベーションや、その活用を通じた場づくり事業を営む設計事務所「株式会社NECCO」代表の藤本陽介さんと、パートナーの長尾芽生さんが今回のゲスト。
「人々の“ハレ・特別・陽”だけでなく、“ケ・日常・陰”に寄り添える存在でありたい」という彼らのまちとの関わり方は、そこにあった地域やコミュニティを乱暴に上書きしていくのではない、大切に育まれてきたものの価値を理解し、そっと手を添えながら共に未来を創造していく営みです。その所作は、まるで農夫が生態系の中で自然に伸びゆく作物に、添木をしたり、剪定したり、草を抜いたりしながら、伸びたい方へ導き育てるやり方と似ているようにも思います。
“陰”を大切にするとはどういうことでしょうか? 日常のささやかな心の動き、取るに足りないこと、生活の積み重ね。誰かに「どうだ!」と見せびらかすわけではないその時間の集積から、人生の大部分ができ上がっていきます。まちや地域、コミュニティもきっと同じ。陰に属するものの揺らぎや惑い、蠢きの全てに慈しみの眼差しを向ける、「職能」を包み込む「徳」のようなものが必要かもしれません。飲み込まれることとも、迎合することとも違う、「個」を発揮しながらも調和し共生する在り方。脅迫めいた「違わなきゃ」ではなく、「そもそも違って当たり前」という力の抜けた価値観を取り戻させてくれたまち 腰越で、藤本さんと長尾さんは、個であり、全体でもあることを同時に生きる生き方を実践しています。地域という「全体」へと影響を与えながら、地域からも影響を受け取る「個」であること。その両方が、互いを大切にしながら共に持続していく。「個の時代」とは、双方向に行き来し続けるその波の中を、自覚的に生きる時代とも言えそうです。
近い将来、ホワイトカラーの仕事の9割以上をAIがこなすようになるという時代に、私たちにますます求められるのは「人間として信頼されること」だと言います。
あの人となら一緒にいたい。
あの人といると安心する。
あの人となら、何か一緒にやってみたい。
人に安心感と信頼を与えられることこそ、人間の極めて重要な資質になると言われています。
長尾さんにとって「働く」とは、「子どもの未来をつくること」。そして藤本さんにとっては必要以上に特別なものではない「自己表現の一つ」だそうです。「働く」とは自分が特別であることやハレの自分を証明するためのものではなく、この地域が好きで、ここで生き続けていきたいという温かい気持ちを代弁する活動。自分たちを包み込む地域や、それを手渡す次世代と共に模索しながら未来を創っていくことは、一丁上がりではない“ケ・陰”の営みなのです。
とあるZ世代の若者たちに「リーダーシップとはどういうものだと思うか?」と尋ねたことがありました。彼らは「弱者の声を掬い上げること」だと答えました。これから必要とされるのは燃え盛る松明や巨大な砲台のような遠くの王ではなく、共に生き、熾火のように人々を温め続ける頼もしい隣人なのかもしれません。だとすると、藤本さんや長尾さんの在り方から、新しい時代のリーダー像が浮かび上がってくるのです。
(角 舞子)
今回のゲスト

藤本 陽介(ふじもと ようすけ)さん
代表取締役/一級建築士
1986年東京都立川市生まれ。
機械工学を経て建築の道へ進み、日本大学大学院修了後、専門学校教員や大学研究員として教育・研究に従事。
ANDREA・H・ARCHITECTSとの協働で住宅・共同住宅の設計に携わる。
教員時代に鎌倉・腰越の空き家活用プロジェクトに関わったことをきっかけに移住し、2021年に株式会社NECCOを設立。
地域に根ざした建築とまちづくりを実践している。
長尾 芽生(ながお めい)さん
宅地建物取引士/二級建築士
1989年新潟県長岡市生まれ。
日本大学大学院修了後、アールエイジ株式会社で建築・不動産分野の実務を経験。
2020年にフリーライターとして独立し、言葉を通じた発信にも取り組む。
2021年より株式会社NECCOに参画し、設計活動と並行してプロジェクト企画や運営にも携わる。
建築と編集の視点を横断しながら、地域にひらかれた場づくりを実践している。






