【鎌倉FM 第76回】踏み出せない自分をやめるには?
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& Column
踏み出せない自分をやめるには?
2025年4月、鎌倉の御成町の一画にフラワーショップ「Gui flower kamakura」をオープンさせたばかりの前田有紀さん(株式会社スードリー代表取締役/フローリスト)が今回のゲスト。
テレビ朝日のアナウンサーだった有紀さんに転身のきっかけをくれたのは、深夜のスーパーで出会った花。寝るためだけに帰宅していたようなマンションの部屋に花を飾り出したその日から、「自然の時間の流れの中で生きる心地よさ」に目覚めていった有紀さんは、「好き」な花を追いかけてガーデナーの勉強のため単身イギリスへ。美しいメイクと衣装に身を包み、テレビカメラの前で秒単位で原稿を読んでいた時よりも、すっぴんで土まみれになりながら自然の中で花や植物に触れている方が「自分らしい」と確信し、「花の裾野を広げる」という明確な志を胸に帰国。フラワー業界で3年間の修行を積んだのち、自らのブランド「Gui」を立ち上げ、東京での1店舗目を経て、住まいのある鎌倉にもお店を開くに至りました。職場から10分で子どものお迎えに行ける、仕事と暮らしの行き来が容易な職住近接スタイルが、公私両面で有紀さんの日常をよりいっそう充実させているようです。
有紀さんはその一方で、「好きを仕事に研究会」を発足。かつての自分のように「いつか、好きを仕事にしたい」「このままでは何か違う気がする」と感じている人に対して、ご自身のキャリアチェンジの経験をシェアしつつ、ゲスト講師も交えながら「好きを仕事にする」ことを一緒に考え深める活動もされています。アナウンサーからフローリストへ。そこだけ聞けば、華麗なる転身のように受け取られがちな有紀さんのキャリア。しかし、フローリストという一つの答えに至るまでには、ヨガや料理など、さまざまなことを学んだり試したりしながら悩んできた道のりがあったと有紀さんは語っています。アナウンサー時代には、その道を極めた多くのトップアスリートに取材もしてきた有紀さん。時には何をやっても突き抜けていかない自分自身を責めたり、嫌いになりそうになった瞬間もあったのではないかと思います。それは私たちも同じ。
そんな有紀さんから、「何かが違う気がして空虚さを感じる自分」を卒業して、「本当に自分が好きだと思うことにのめり込み、それと一体化して生きていく自分」へと舵を切っていくための、とてもシンプルなヒントをいただいたような気がします。
それは「小さな好きを集める」という“アクション”。正確には“捉え方”と言った方がいいかもしれません。「挑戦する勇気を持つ」とか「手当たり次第にやってみる」とか「ワクワクに従う」とか、世の中でよく言われているような踏み出すことに決意や覚悟が要りそうな表現ではなく、目的や行き先は考えずに肩の力を抜いて、ただ自分の「好きを集める」という捉え方なら、なんだかできそうです。多様な写真を切り貼りして完成するコラージュ作品を眺めるように、自分の「好き」を集めてみた結果を眺めることで自分を客観的に知ることができるでしょう。
私たちが社会に適応しようとして身に付けてしまった着ぐるみのような自我。その下に隠れていた自分の本来性に、「好き」をコレクションすることで触れることができる。「一歩を踏み出せない」のは勇気がないからではなく、きっと自分の本来性とのつながりを取り戻せていないから。全てを捨てて丸裸で海外に行ってみるとか、ひたすら瞑想するとか、インナーチャイルドを癒すとか、本来性とつながる方法はいろいろあるでしょうが、有紀さんが教えてくれたのはとてもマイルドで、日常の中で自分を満たすことを増やすだけの幸せなアプローチです。
社会からの評価に軸を置くのではなく、自分の内面にある「好き」を仕事にすることのメリットとして、有紀さんは「尽きることのないエネルギーが湧く」と言っています。そんな有紀さんにとっての「働く」とは「自分らしく自然であること」。つまりは、“生きる”と“働く”が一致して区別のない、自分の「全体性」でそこに在る状態です。
それこそが「ありのままの私で生きる」ということではないでしょうか。そんな心境と在り方に至れることの幸せを、私たちも感じたいものですね。踏み出せない自分をやめるには、踏み出そうとするのをやめること。それよりも、まずはあなたの他愛もない小さな好きを、1日の中に増やしてみませんか。それは紛れもなく、あなたの幸せの総量を増やすのですから。
(角 舞子)
今回のゲスト

前田 有紀(まえだ ゆき)さん
株式会社スードリー代表取締役/フローリスト
店舗サイト:Gui flower kamakura
Instagram: / yukimaeda0117
元テレビ朝日アナウンサー。10年間の局勤務を経て、2013年にイギリスへ留学。コッツウォルズの古城で見習いガーデナーとして働いた後、都内のフラワーショップで修業を積み、フラワーブランド「gui(グイ)」を立ち上げる。「花とあなたが出会う場所」をコンセプトに、店舗「NUR(ヌア)」の運営やイベント装飾、企業とのコラボレーションなどを展開。著書に『染めの花 フラワーデザイン図鑑』(誠文堂新光社)。2025年4月には鎌倉に「gui flower」をオープン。現在は鎌倉在住で、2児の母として子育てにも奮闘中。