& Column
「強さ」という光に出会う
中学の卒業式の当日が東日本大震災だった。そんな類稀なる体験をし、しかもそこから生き延びて、震災後の避難所でそのままボランティアを続けたという今回のゲスト、山口隼世さんは宮城県名取市のご出身。震災で家や家族をなくし、避難所で生きる気力を失いそうになっている人々を、医療団と共にやってきたとある理学療法士が「さあ、皆さん!体操しましょう!」と投げかけて、みるみる元気にしていくのを目の当たりにした山口さんは、理学療法士という仕事の持つ力に感動し、将来の進路を心に決めたそうです。
あれから14年後、29歳となった山口さんは今、ご縁あって湘南エリアに住みながら理学療法士として活躍。同時に個人事業として整体師の仕事や高齢者に向けた転倒予防などのワークショップ、横浜市や鎌倉市を中心に防災の講師も務めるなど、自らの貴重な経験をフルに生かして多くの人を元気にしています。
体が元気になれば、心も上を向く。生きようとする気力が湧いてくる。だからこそ体を通じて人を笑顔にしていく。山口さんにとって「働く」とは、「楽しい!」の一言。楽しいからこそ、仕事は苦役や労働ではなく、自分自身の生きる喜びそのものだと快活に語っています。そこに微塵のためらいもない所が山口さんの心根の輝きであり、それこそが人に光を与えているように思います。
山口さんが心底そんなふうに思える裏側には、「人生、もうあれ(東日本大震災)以下のことはない」という気持ちがあるからだそうです。死を覚悟するような壮絶な体験、信じていた世界を一瞬にして失う体験、その後の長い暗闇を体験したからこそ、今生きているというだけで幸せを感じる。そんな「生」への絶対の肯定感が、山口さんの揺るぎない強さになっているようです。山口さんのエネルギーに触れていると、私たちが陥りがちな日々の目先の悩みや出口のない思考パターンが、なんとちっぽけに思えることでしょう。
時代が大きく変わる中、変わりたいのに変われない自分にうんざりするくらいなら、三陸や能登など、今なお苦しみを抱えて生きる被災地へ旅してみるのも良いかもしれません。あるいは海外の被災地でも良いかもしれません。時が経つほど人々の記憶から薄れて行く災害。被災地の人々のケアは果たしてもう十分になされているのでしょうか? 当時中学生だった山口さんが避難所でしていたのは、被災した家の片付けや家族の捜索に出かける大人たちに代わって、避難所にいる子どもたちと遊ぶことだったそうです。私たちにも現地で何かしらできることがきっとあり、それこそが自分自身の再発見にもなるでしょう。
自分の殻を破ることは、誰かを幸せにすることにきっとつながっています。まずは現地を見るだけでも何かが変わる。そして、いつ来るとも知れない自然災害が他人事ではないことも、改めて、頭ではなく体で分かるはずです。生きているというだけで、どれだけ幸せであるか。それが存在の奥深くで分かった時、内側から本当の強さが湧き上がってくるのではないかと思います。
(角 舞子)
今回のゲスト

山口 隼世(やまぐち はやせ)さん
理学療法士
宮城県名取市出身。
中学卒業式当日に東日本大震災を経験し、避難所でのボランティア活動をきっかけに理学療法士の道へ。
現在は湘南在住で病院勤務と並行し、整体や転倒予防ワークショップ、防災講師など多方面で活躍中。