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& Column
シェアリビングに見る「場づくり」と「働く」のアップデート
大正7年に松下幸之助が松下電気器具製作所として創業し、経済成長期には、いわゆる「白物家電」を大量生産してきたパナソニック社。昭和の時代に洗濯機・冷蔵庫・掃除機が劇的に家事の負担を減らし、テレビがお茶の間に日常的なエンターテイメントを持ち込んで、当時の暮らしを豊かに変えてきたように、今またパナソニックはこれからの時代に求められる「豊かさ」を見つめ直し、新たなチャレンジを始めているようです。
今回のゲスト 高浜拓也さん(パナソニックホールディングス株式会社 事業開発室)が手掛けるのは、鎌倉駅から徒歩2分、御成通りを少し入った場所にある、「NIHO」という名の「シェアリビング」。元々は面白法人カヤックが運営していた「まちの社員食堂」の建物を使って、地域の大人も子どもも高齢者も、域内外のノマドワーカーも、誰もが気軽に利用できる「まちのリビング」を運営しています。
ワーカホリックな働き方を続けた末に、身体からの要請によって休職を余儀なくされた高浜さん。それをきっかけに自分の生き方・働き方を見つめ直し、これからは身体と暮らしに寄り添った生き方を選ぼうと決めた瞬間に、導かれるように運ばれた現在のポジションと鎌倉への移住。時代が高浜さんを、そしてパナソニックをコーリングしたのかもしれません。
昭和30年代には洗濯機・冷蔵庫・白黒テレビが、昭和60年代にはクーラー・カラーテレビ・カー(自家用車)が「三種の神器」と言われましたが、豊かさの主軸がモノではなくなった現在、私たちの暮らしを豊かにする三種の神器とは何でしょうか? ハイスペックな高級家電もさることながら、これからは「心身の健康・地域を含む居場所・人とのつながり」がそれにあたるのではないかと思います。少し前までは、掲げられたテーマ性の下に同質の人々が集う「場づくり」や、離れた地域とご縁を結ぶ「関係人口」などが注目を集めましたが、コロナ禍以降、私たちはもっと足元の日常の中に、居場所と関係を見出したくなっているようにも思います。生き物としてのすこやかさを求める私たちの生命が、血の通った温かなエネルギーを交わし合うリアルで日常的な「交流」を欲しているのではないかと思うのです。
そんな中で場づくりは、より一層の多様性、多世代性、そして「何気なさ」みたいなものも必要になっている気がします。「偶発的な出会い・化学反応」を積極的に求めに行くような姿勢ではなく、「何かをしてもいいし、しなくてもいい。話してもいいし、話さなくてもいい。何か起きてもいいし、起きなくてもいい」というような寛容さ。けれどもその場は、常に誰かの優しいまなざしで満たされている安心感がある。求められる場と場のつくり方もそんなふうに変化しつつあるのではないでしょうか。
こうした新たな地域の交流の場を、半ば社会インフラとして、パナソニックのような大手企業が再構築していこうとしていることに「共助」の可能性を感じます。しかし、仕組みやアプリ開発だけでは決定的なものが足りない。その場所に高浜さんのような「熱源」があることが、やはり大事な気がします。空き家に明かりが灯り続けるからこそ、そこは空き家でなくなる。誰も使わなくなった「公民館」とは異なる「みんなのリビング」には、団欒が生まれるためのこたつのような温もりがきっと必要。
高浜さんにとっての「働く」とは、「世界に働きかけること。自分と世界との関わり方」だそうです。生き物である自分が、自分の心と体に寄り添いながらただ生きて、近くで暮らす誰かと何気なく、でも確かに交流し、時々一緒に盛大に笑ったり、しんみり深く話したり、一緒にお腹を満たして幸せな気持ちになったりする。経済性を追求していくための「働く」ではなく、生きる質感に艶を出していくための「働く」。かつては当たり前だったこうした営みをもう一度自分自身や地域の中に取り戻すことこそ、自身や地域のリブート・再活性なのかもしれません。
(角 舞子)
今回のゲスト

高浜 拓也(たかはま たくや)さん
パナソニックホールディングス株式会社 事業開発室
シェアリビング NIHO コミュニティマネージャー
大阪生まれ。京都大学 経済学部卒業。
大学在学中にパナソニックホールディングス株式会社のインターンへ参加し、卒業後に同社へ入社。
イノベーション推進部門テクノロジー本部にて、技術開発・新規事業の立ち上げに携わっています。
自身の二拠点生活や多世代シェアハウスでの経験から、「人がゆるやかにつながる暮らし」に関心を持ち、シェアリビング NIHOの事業開発を推進中。
趣味は旅と登山。