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& Column
自分の生かし方を見つけるために
数百年、数千年の時を超える仏像などの文化財を修復するだけでなく、今後の千年に残る文化財を、今、つくっていく。それが今回のゲスト、大仏師 奥西希生定海(おくにしきしょうじょうかい)さんがしている仕事です。「自分が生きている間に日の目を見なくてもいい、自分も道具の一つ」。そう言い切る希生定海さんが体感している時空のスケールを想像すると、自分がなんと小さく思えることでしょう。日々の中で近視眼的に狭まっていた視野がスッと広がって煩わしいエゴが消え、清々しいくらいの気持ちになります。
このような長期間的視野を確保することが、瞬時に情報が飛び交い、速く結果を出すことを求められる現代の情報化社会・資本主義社会の中では極めて難しくなっていると言われます。文化思想家ローマン・クルツナリックが提唱した「グッド・アンセスター(よき祖先)」という考え方。「私たちは100年後の人類にとってよき祖先になれるのか?」という問いは、断絶していた鎌倉仏師の技術を復興し、のちに歴史の1ページにそう記されるであろう希生定海さんのような仕事・生き方をしている稀有な人だけでなく、実は私たち全員の、日々を生きる上での写し鏡になり得るのではないかと思います。そんな大きな視野で自分の仕事や命を捉えてみた時、もっと本質的な有り様が見えてきそうです。
また、希生定海さんは転職や職場における自分自身を考える時、「形容詞」で表現できる自分に着目し、その形容詞を磨き上げるように、とも言っています。スキルや肩書きではなく、「優しい◯◯さん」とか「真面目な◯◯さん」の、その形容詞の性質に気づき伸ばしていく。形容詞は人の「感情」に直結しています。つまり、自分が周囲に与えている心理的影響を示しているのです。自分が人の心にどのように触れていくのか、記録ではなく記憶に残る人にどのようにしてなっていくのか。「私はどんな存在として人々の間にいたいのか」を考えてみると、今までとはまた違う自分の伸び代や自己開発の糸口が掴めるかもしれません。
「自分を生かす」とは、自我の押し付けや承認欲求、感情的な自己主張ではなく、宇宙サイズで大きく俯瞰した静かな客観から、自分という一つの働きを世界の中に位置づけるアプローチ。命ある間に花が咲かなくてもいいとすら思えるほど大いなるもののために自身を捧げ供える。そのおおらかさの中に身を委ねながら命の火を燃やす。自分を「待てる人」であると表現する、希生定海さんのご自身の生かし方は見事です。私たちも見つけてみたいものですね、ささやかな一滴でもいい、未来の世代のためによき流れとなれる、自分自身の形容詞と生かし方を。(森田マイコ)
今回のゲスト
奥西 希生定海(おくにし きしょうじょうかい)さん
1979年、鎌倉市に生まれ。
代々職工の家に生まれ、幼少の頃より「木彫」「漆芸」と共に育つ。
2015年、お寺、神社の仏像や神像を制作、修復する「株式会社 鎌彫」を設立。
「大佛師」として仏像の制作修復を行うと共に「彫刻家」として三越、高島屋など全国百貨店で展覧会を開催。
「過去の文化財を守る事業」と共に「未来の文化財を創る事業」として
2023年、新たに「株式会社 千年彫刻」を設立。代表取締役、初代彫刻制作責任者に就任。