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& Column
クリエイティブに生きる、とは?
予測によれば2045年、AIの知能は人間を超えるそうです。ホワイトカラーの仕事はほぼAIに取って代わられるといわれる中で、人間の手によってものをつくる仕事の価値がますます見直されるのではないでしょうか。デジタルファブリケーションが発達していく一方で、仕上がりの精確性や姿形の美しさだけに留まらない、人間のエネルギーがこもったものが持つ生命のぬくもりにも似た何かを、敏感に感じ取る人もまた増えそうです。
すでに現在、地方の伝統工芸の職人へ転職するとか、あるいは新卒で職人を目指す若い世代も少数派ではあるが存在しています。経済成長期のような「こうすれば安全」というルートがない不確かな時代、自分自身が肉体で感じる手触りや物質の持つ質量は「確かさ」を感じさせてくれますし、たくさん売ることよりも持続的に需要がある分野で、そう簡単にアップデートされない骨太な技能を身につけることの「賢さ」と「強さ」がさらに注目を集めそうです。しかもJAPAN MADEのマーケットは、今後は圧倒的に海外へ広がっていくのです。
今回のゲストである町工場の若き三代目社長 田城功揮さんは、自身は職人ではないものの、多世代の職人たち一人ひとりの良さを引き出し、伸ばし、業績を上げていくためのマネジメントを行っています。田城さんのユニークな点は、幼い頃からの「働く」のロールモデルが創業者である祖父、二代目の父という、「経営者」であったことです。だからこそ“人”に興味が湧いたし、「働く」や「仕事」はあくまで「自分がコントロールするもの」という意識が根付いているのです。「自分はどう生きたいか」にまずフォーカスし、家業を承継する前に、興味のある会社へ勤めつつNGOの理事として活動したり、自身で起業したりしています。自分の人生をどのように創造していくのか。それは会社の舵を握る経営者の主体性と重なる所が大きいように思います。全員が経営者にならなくてもいいでしょうが、その意識を取り入れることは、これからの人生を楽しみながら生き抜く視座をもたらしてくれそうです。
何かをつくり出す場として、町工場は本来、極めて創造的な場所だと言えます。株式会社タシロのスタッフはなぜ9割が20代なのか、なぜイキイキと働けるのか、そしてなぜこの会社は毎年何かの表彰を受けるのか。それは、32歳の若き社長が「僕らはクリエイティブなんだ」と社員一人ひとりに捉え直させたことが大きいのではないでしょうか。自尊心や誇りを持ち、技術を磨くことを通じて人格を磨いていくこと。職人として生きることは、実に創造的な生き方なのだと思えるからこそ、彼らは自らのアイデアを積極的に形にしていく。そのエネルギーはきっと、人生そのものに向かう姿勢をも創造的にしていくでしょう。
田城さんにとっての「働く」とは、自分の力を発揮して、誰かの役に立つこと。そこには過剰な自我や自己表現の気負いがないから清々しい。シンプルに誰かの役に立てたことを喜ぶ姿は、どこか職人的な生き方とも重なります。
私たちはこれから、今まで以上に自分の人生を手づくりしていくのです。小綺麗でスマートじゃなくてもいい。自分の人生を濃密に生きるために、自身の火を燃やし、汗をかき、油にまみれる。その熱さこそ、創造性と一つになった潔い人間のかっこよさであり、命の時間を使うに値する生き方ではないでしょうか。(森田マイコ)
今回のゲスト
田城 功揮(たしろ こうき)さん
株式会社タシロ 代表取締役社長
新卒で株式会社パソナに入社し、同時期にNGOのNICE(ナイス)の理事を務める。
2019年、26歳の時に株式会社タシロに入社。新規事業として自社製品の開発を開始。
「3WAYピザ窯」でクラウドファンディングに挑戦し目標金額の300%を達成。同商品は日本最大規模の展示会である第93回東京インターナショナル・ギフト・ショー「LIFE×DESIGNアワード」のグランプリを受賞。
2023年、3代目 代表取締役に就任。
「日本で一番挑戦するベンチャー型町工場」を掲げ、町工場から日本の産業の盛り上げを狙う。