【鎌倉FM 第24回】 発酵から学ぶ自分らしい生き方

今回のゲストは、「発酵人」の田上彩さん。10代後半よりモデルとして活躍、ミス・ユニバースのファイナリストを経験した後、無農薬の野菜づくりを始め、発酵食の世界へ。味噌、甘酒、梅干しづくりなどのワークショップを各地で開き、昔ながらの手仕事や発酵食を広めるプロジェクト「Edain」を主宰、若い女性たちから圧倒的な支持を得ています。近年は固定種を扱う種ブランド「organic disco」の販売もスタート。海をこよなく愛するサーファーでもある田上さん。彼女を突き動かしている原動力とは?今回のゲストは、葉山在住のフードデザイナー 横田美宝子さんです。SDGsの浸透と共に注目されるフードアクション。新型コロナウィルスの影響もあり、「食」を見つめ直した方も多いのでは。時代がこうなるずっと前から「食」を通じてアクションを起こし続けている横田さんは、フードデザイナーとしてどのように食や人と向き合ってきたのでしょうか? 土や食材、人々との関係においても共通しているという横田さんの「距離感」とは? そのプロフェッショナルの流儀を伺います。

目次

アパレルから畑、そして発酵の世界へ

小松

「発酵人」というのは、どういうものなんですか?

田上さん

私はもともとアパレルに勤めながら畑を始めて、そこでできた野菜がすごく愛しかったので、これをどうにかして良い状態で腸に入れようと思ったら「発酵」にはまったんです。いろいろ教わるうちに発酵の世界がどんどん面白くなって。いろんなイベントで甘酒などの発酵食品を出品するうちに肩書きが必要だということになり、屋号を考えていた時に展示会に行ったら、前のブースの方が「料理人」て書いてあった。それで「料理人ってかっこいいな…『発酵人』にしよう!」って(笑)。使っているうちにしっくりなじんできた感じです。

小松

定着していったんですね。

田上さん

発酵していって(笑)

小松

一緒になっていった、と(笑)

アトピーを克服して実感した「食」の大切さ

田上さん

モデルのお仕事をしていた時に、周りの女の子たちがサプリメントで自分の体調を整えたりしていて、ちょっと体のバランスが崩れているなと感じていたんです。私はもう少し、例えばお味噌とか、日本の古き良きもので体を整えた方がいいんじゃないかと昔から思っていて。でも、あまりそれを言っても引かれちゃうし、どういうふうに伝えていったらいいんだろう? と考えた時に、お味噌づくりをみんなでやってみようと。「お味噌づくりをやるから来ない?」みたいな感じで、友達のモデルの子たちを集めてワークショップをやったら予想以上に好評で。結局食べた物が体になっていくから、こういう自然のもので体調を整えた方がいいと思うよ、って伝えながら、1年間くらい、友人たちを集めてワークショップをやっていたんです。そうしたら他の人からもご要望をいただくようになり、いろいろな所でワークショップをやり始めました。

実はもともと私は重度のアトピーで、けっこうひどかったので、それを見た親が自然療法など「食」で治してくれたことに大きな影響を受けました。食の力が大切なんだってことを自分の体を通して知ったから、それを厚かましくなく伝えたいと思って、こういう活動をしています。

小松

うれしいですよね、その思いが届くと。お母さん、素晴らしいですね。

田上さん

母がそういうふうに治してくれたことがありがたいですね。

楽しいゴールを見つけて飛び込む、そうすると扉が開く

田上さん

高校を卒業して進路を決める時に、モデルを志して実際になったのですが、モデルになった後も「今後はどういうふうに続けていくのかな? はたしてこれがずっとやりたい仕事なのだろうか」と考えていて。そんな時にミス・ユニバースを知り、「これ、やりたい!」と思ってそこに行きました。それが終わった時にまた悶々としてきて、「何がやりたいんだろう」と考えて。私は何かいつもゴールがあって、楽しいことを見つけたらそこに行く、みたいな選択が自分のエネルギーになっているのかなと思います。そういうふうにすると、自分が思ってもいなかったご縁と扉みたいなものがワーッと開いて、導かれているような感じがします。

小松

まっすぐですね。すごいなあ。

横田さん

「操作」しない。自分の感情や気持ちを相手に押し付けない。それは大地にも同じことが言えて、大地を操作するのはとんでもない。もしかしたらきれいに並んだ均一な野菜ができるかもしれないけど、不自然な状態になって個性がなくなってしまうでしょ。それと一緒で、大地も操作しないし、人も操作しない。というより、自分にはまったく操作できないですね。

小松

なるほどね! そういう意識があるんですね。

数年したら国産野菜が食べられなくなるという危機感

小室

その自分の目的というか、自分の興味がある所に「発酵」があったんですね。

田上さん

そうですね、発酵は自分の中で「こんなふうになりたい!」と強く思って発酵のレストランで5年間学んだので、興味があるという段階よりも、もう自分の中の一部というかベース、身となったという感じです。

今すごく興味があるのは、やっぱり畑。畑も5年間くらいやっているんですけど、農業にもいろんな見過ごせない現状があるので、自分自身が関わりながらどうやって解決する方向にしていったらいいんだろうという所に興味がありますね。借りていた畑の持ち主のおじいちゃんも、病気で今年から農業をやらなくなってしまったし、隣の農家さんも今年からやっていなくて。

小松

それはご高齢になられたから?

田上さん

そうです。今、日本の食料自給率は40%未満である上に、農業に従事している人の70%以上は60代以上の方らしくて。最近、私の目に見える所でも畑をやめていく方が多いなと感じています。

小松

顔が見えているからこそ、余計に感じるものがありますよね。

田上さん

隣の畑の草が伸び放題になっているとか、そういうことを肌で感じる機会が多くなり、日本の現状では高齢者の方が畑を守ってくれていて、国産野菜をつくってくれているけど、もう少しちゃんとそこに目を向けないと、あと何年間かで国産野菜が食べられなくなる時代が来る、というのが私には危機感としてあります。じゃあ、それを防ぐためにどうしたらいいんだろう? というのを、目標が壮大すぎて何からすればいいのか分からないですけど、分からない中でも考えています。

Via:Instagram@taueaya

本質的なことを、キラキラした要素も含めて伝える

田上さん

ミス・ユニバースの時に、自分はどういうふうに見えるのか、どういうふうに表現したら相手がどう思うかのという表現方法を学ばせていただきました。私の表現の仕方は、そこで習得したものが原点になっていると思います。その時に、日本の良いものを、もう少しキラキラした要素も含めながら本質的なものをアウトプットするためにはどうしたらいいんだろうとずっと考えていて。マーケットなどの活動もその流れから。

河野

今の彩さんの活動につながっているんですね。

小松

まずその問題があるってことを知らない人もたくさんいる中で、こうやって彩さんがオシャレに楽しくハッピーに活動されている姿を見て、そういう問題について知る、興味を持つという方も多そうですよね。

多様性は豊かさ。コミュニケーションが人を幸せにする

田上さん

地方に行かせていただくこともあるんですが、こちらに戻ってくると、湘南のカルチャーの独特さを感じます。湘南にいるとこれが当たり前なんですけど、これは独特なカルチャーだったんだなって。特別というか。

河野

それはどんな所で感じるんですか?

田上さん

「シティの海」という感じがして、それが自分の中ではすごく心地いいし、ここで生まれ育って良かったなって思うんです。シティ感もあり、海もあり、畑もある湘南は、日本の中でも特別な地域だと思います。オーガニック・コミュニティの湘南の顔と、サーフィン・カルチャーの湘南の顔のどちらもあって、どちらも今楽しんでいます。今回コロナになった時に、湘南のコミュニティの人たちの、「野菜いっぱいあるから持って行きなよ」とか、SNSのつながりだけじゃない肌で感じる温かさを感じることができ、ローカルのつながりにメンタルも救われました。

小松

改めて感じましたよね。

田上さん

最近、「多様性」は豊かさなんだってことに気づいて。いくら金銭的に豊かであっても、やはりコミュニケーションがないと幸せにはなれない。いろんな人たちとのコミュニケーションや支え合いがあることで、人は幸せになれるんだなってことを強く感じて。

小室

そういう時代に入りますよね、これからますます。

小松

でも、多様性って時間がかかりませんか? 関係性の構築だったり、理解だったり。そこも何か発酵と通じるところがあると思うんです。

小室

簡単じゃないもんね。

小松

簡単じゃない。なんかちょっと個々のパワーに委ねている感じもきっと発酵と一緒だなと思います。

河野

そうか、発酵から学ぶことというのは、そういう人間関係だったり、ライフスタイルにもつながってくるってことですか?

田上さん

そうですね、つながってきます、本当に。焦っても発酵しないし、お味噌もやはり10ヶ月くらいおいたお味噌がおいしいし。でも焦ってすぐ形にしようとしたり、すぐ何かにしようとしたりしがち。自分もそうなんですけど。仕事でいうと、すぐ結果を出したいと思ったり。でもそうじゃなくて、自分のできることをそこでやって、あとはもう委ねて待って、その時自分ができることを精一杯やればいいのかなというのは、発酵から学びました。

小松

手をかけすぎてもいけないしね。

田上さん

そうなんです。畑もそうですしね。

焦らず、自然のサイクルでもっと自分らしく生きる

田上さん

アパレルを辞めて、畑やワークショップを始めて、自分の中ではもっとこういうふうにしたい、もっと自分らしく生きるためにはどうしたらいいんだろう?って考えながら、少しずつ自分らしく生きられるようになってきているのかなと思います。まだ完成はしていないし、今も模索しながらいろんなことにチャレンジしているんですが、そこにはもちろんストレスもかかるし、本当にこれをやって喜んでくれる人がいるのかなとか、これでいいのかなとか、その時はすごく悩む。でも何も持っていないからやるしかないし、やることがすごく楽しいし、そこでまたいろんな反応が返ってくるのが自分のやりがいにもなっています。

河野

発酵のプロセスと生き方がリンクしているんだというのは発見でしたね。だから発酵なのか、って思いました。彩さんの仕事やライフスタイルが少しずつ変わっていったという所も、すぐに結果は出ないけど少しずつ蓄積していくというのは発酵の在り方そのもので、そこがつながっているんだなと。

小室

彩さんにとっては畑違いのようで、畑違いじゃないんですよね、すべてにおいて。

小松

あとはこのラジオを聴いているみなさんに委ねましょう(笑)

田上さん

そうですね、発酵していくでしょう(笑)

小室

ご自身が望まれていることを、素直に、体のセンサーで動いているんだなと思いました。だからこそ嘘がないし、そこが遠回りなのか、近道なのかもあまり気にしない。でもそれが良い発酵につながっているんでしょうね。

田上さん

自然のサイクルに沿っていれば、そこまで変なふうに行くことはないと思うので、自分のインスピレーションとやるべきことさえしっかりしていれば、あまり恐怖感はないですね。

今回のゲスト

田上彩(たうえあや)さん

発酵人。サーファー。湘南生まれ湘南育ち。モデル、ミス・ユニバースのファイナリストを経験した後、無農薬の野菜づくりを始め、発酵料理の道へ。手仕事や発酵食を広めるプロジェクト「Edain」を主宰し、発酵食づくりのワークショップやガールズマーケット、キッチンカーでのポップアップショップなどの活動を行なっている。
 
▼田上彩さんのInstagram
 @ taueaya
https://www.instagram.com/taueaya/

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

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