今回のゲストは、株式会社パウダーカンパニー代表取締役の高久智基さん。雪山の滑走を目的としたバックカントリーツアーガイドのパイオニアとして、創業以来約20年間、一貫して自然を楽しむことの本質を伝え続けています。さらに近年は鎌倉の腰越に「パウダーカンパニー湘南」を創設し、山だけでなく海の魅力も伝え始めています。そんな高久さんは、なぜ腰越にも拠点を置いたのでしょうか? そしていま、自然とどう向き合っているのでしょうか?
鎌倉の海で始まったプロジェクトのきっかけ
立ち上がりはどんな感じだったんですか?
もともと湘南に実家があって、6年くらい前に父が病気をしたのをきっかけに、いままでスキーのシーズン中は断っていたこちら(湘南)での仕事も入れるようにして、ちょくちょく帰ってくるようになったんです。それが今回のプロジェクトにつながる最初だったかもしれないですね。自分も北海道で起業したり、自然の中でスポーツしたりということをしていると、「ここでは何ができるかなぁ?」とか「ここでは何が面白いだろうな?」とか「北海道でやっていることと、こちらをどうつなげられるかな…」と漠然と思ってはいたんです。それで3年ちょっと前の春からこのプロジェクトに着手し始めました。
自由と雪山滑走の爽快さを求めて
スノーボードと出会わなくても、湘南にも目の前に自然がたくさんあるじゃないですか。なぜ湘南を飛び出したんですか?
きっかけとしては中学生の頃にスケートボードに出会い、その文化自体に、何かとても自由を感じたんですね。形が決まったものじゃなかったし、レースでもないし、挑むプレイヤーたちやその周りの文化にすごく自由を感じてハマったことがあって。当時はスキーブームでもあり、山をエンジンもなしに、ものすごい距離をあんなスピードでグワーッと滑り降りちゃうというというのがすごかったし、大自然の中でいつもと違う非日常を味わって、そこで運動もして、山を滑り降りちゃって「すげえな!」と思ってて。そこでたまたまスノーボードを見かけて「ああ、山でスケートボードをしてるよ!」みたいな感覚になったんですね。スケートボードから感じていたあの自由度と、スキーで知ってた、山をすごい距離滑り降りちゃうみたいなことが合わさったら、どんなにすごいんだろうと思って。特に、私がいまもやっているのはバックカントリースノーボードといって、スキー場じゃない場所でスノーボードをするのが専門。ここの斜面を滑りたいという目算を立てて、そこまで車ないしは歩いていって、そして滑り降りてくる、そういうスノーボードを軸にしてるんです。
圧倒的な自然に包まれて湧き上がるもの
整備されたところもいっぱいある中で、高久さんはどうしてそういう自然本来の姿の方に魅力を感じているんですか?
圧倒的に整備されてなくて、自然の力で整備された方がクォリティが高いからです。
はぁ〜!
その瞬間にしかないわけですよね、同じラインは2度とないし。
だから海も同じなんですよね! そこの場面だけ切り取ると、すごく不条理で過剰に見えるかもしれませんが、視点を変えて、この機会は一生に1回、ないしは少なくともこの台風の中で今日だけ、あるいは今シーズンの中でいちばん良い波は次だ、という瞬間に自分がドロップインできたら…と思うと。なかなか理解・評価はされがたいところではありますが、なにしろ自然が素晴らしい。評価がなくてもOKなくらい素晴らしいんですよ(笑)。もう湧き上がってくるものがあるんで、本当に飯なんか食わなくてもやっていられるんですよ。
いまも昔も多くの人が魅了される理由は?
サーフィンも、スノーボードやスキーも、昔から廃れずにいまもたくさんの人に愛好されている、いわば「レジャー」だと思うんです。高久さんの考える「レジャー」というものの社会的意義というか、こういうふうに貢献しているからたくさんの人に広がっているんじゃないかというようなこと、どうお考えになりますか?
インフラから政治や経済まで含めていろんな歯車がある中で、やはりしっかりと働いたとか、しっかりと自分が所属したり、満足したりして日々を過ごしているから、「せっかくの休み、今年こそはあれをしたい!」 という気持ちが生まれるんだと思うんです。僕もよく遊ぶようにはしていますけど、こうやって地域を変えて仕事をしているので、疲れちゃって家で1杯飲んでTV見てダラダラするときもあります。これも自分にとっては必要な時間ですしね。だからこそまた次の日元気にやれて、その中で「今度はせっかくだからこうしようよ」なんて楽しい話ができて、それが現実化を迎えれば素晴らしいわけで。
ただ、自分は特にスノーボードは仕事の部分が非常に多いので、辛いなって思う時もやはりあります。体が痛かったりするときもあるじゃないですか。でも、こと僕にとって湘南でのSUP・サーフィンを通じた海での遊びは、純粋に楽しめるというか、自分はプロじゃないので、転んじゃってもいいじゃないか、じゃないけど「スノーボードのようにはいかねぇなぁ」って言ってられる部分があって(笑)。でもね、僕のスタンス自体は違っても、スノーボードもサーフィンも自然がつくる一瞬の造形や要件が整って「それに人間が合わせる」という、要はいかに自然に自分をフィットさせるかという、その瞬間を楽しむことは共通しているんです。想像を全然超えちゃうような楽しさや、忘れられないようなシェア感があるのは、やっぱり自然の中での「遊び」の方が、レベルが高いなぁっていうか、より良いんじゃないかなと思っています。
自然の恵みを思い切り体感することで尊さを知る
何億年前という話になりますけど、そもそも地球は人間なんか住める環境じゃなかった。植物や木や葉っぱが、人間やいまの生物にとって良い空気をつくってくれた。それをたったこの100年とかの中で燃やしちゃってるわけだから、温暖化云々以前にこの大枠の流れは、もう一度あの人間が住めなかった時代へ戻っているわけで、そのスピードがもう、いまちょっとペットボトルをやめたら…とかいう規模じゃない気がするんですよね。
ビーチクリーン…
そう、僕も一生懸命やってる。でも良くなると思ってやっていませんよ。自分がきれいにしているなんて、全然思っていない。
湘南地区は、土地柄ビーチクリーンや海に対する活動が活発な方じゃないですか。逆に私なんかは地方出身者なので、大自然があるということが当たり前で、その感謝を受け取れる感受性みたいなものに欠けている部分もある気がするんですよ。だから、ゴミを拾うことが大事なんじゃなくて、その1歩先に、自然のそのままのめぐりを喜びとして、恵みとしてちゃんと受け取るという感覚を育てる方が大事なのかもしれないなと、高久さんのお話を聴いていて思いました。それが教育にせよ、学び直しにせよ、その1歩としてパウダーカンパニーみたいなところに自分が訪れて、自然の豊かさをからだで感じるとか、「ああ楽しい!最高!」それだけをやっていくということが、ゴミを拾うよりももっと先に、楽しみながら自然の尊さを知ることなのかもって思いました。
まさにそれだと思います。やっぱり楽しくないと続けられないし、何かこう「やったことの意味」みたいなものって重要だと思うんですよね。1回やっただけじゃ全部は分からないし。
「レジャー」の社会的意義ってそういうことなんだって、なんか納得しちゃいました。みんな、もっともっと楽しめるんですよね、きっと。
今回のゲスト
高久智基(たかくともき)さん
鎌倉市在住。株式会社パウダーカンパニー代表取締役。藤沢市出身で、90年前半からエクストリーム&フリーライドの世界を中心に活躍するフリーライドスノーボーダー。モンゴル最高峰(4378m)の登頂滑降をはじめアラスカ、シベリア、南米など海外ビックマウンテンでの滑走経験多数。特にアラスカ急斜面での撮影、氷河キャンプを行い、数多くの映像に出演する。国内では北海道ニセコを拠点とし、1999年より冬山滑走ガイド集団「POWDER COMPANY GUIDES」を率い、バックカントリー・スノーボードガイドとしても活躍。夏期はニセコ周辺の川や海でのサップガイド「SUP niseko」を運営する。また2017年より湘南の海際で「海と雪山」を繋げるべくサーフィンレッスン、SUPガイディング、スノーボードプロショップを設立。ニセコと湘南を軸に日本全国を飛び回る生活を送る。
公益社団法人 日本山岳ガイド協会 認定 山岳ガイド(ステージ1)、スキーガイド(ステージ2)
ウィルダネスファーストエイド 50時間
CAA レベル1
ニセコウィンターガイド協会 副代表
▼POWDER COMPANY 公式サイト
https://www.powcom.net/