【湘南FM第2回】心と体を一致させる「鎌倉時間」

2月11日にオンエアした第2回目のゲストは、鎌倉駅前のレンバイ(鎌倉市農協連即売所)並びで朝食・ブランチのお店「COBAKABA」を営む、鎌倉生まれ鎌倉育ちのご店主 内堀敬介(うちぼりけいすけ)さん。「ウッポン」の愛称でも知られる内堀さんは、当番組のBGMで使用している、なんともゆるめな音楽も作詞・作曲・演奏しているミュージシャンでもあります。Patagonia鎌倉店・COPEN Local Base鎌倉など、周辺のお店と連携して日曜の朝を楽しむコミュニティ「グリーンモーニング鎌倉」や、面白い人といきなり裸の付き合いをする「クレイジー銭湯」を主宰し、以前から鎌倉で人と人とをゆるやかにつなぐハブ的役割もしてきた内堀さんに、これまでの生き方や、今、何を大事にしているのかなどのお話を伺いました。

目次

大手飲食チェーン勤務から、個人店を開業

内堀さん

大手飲食チェーンに8年ぐらいいて、地域コミュニティをつくっていくという部分を学んだり、店長を経験したりしながら、大きい企業になるにあたって、何か「個人店でしかできないようなこと」がしたくなったんです。いわゆるスケールメリットみたいな所でやっていくというんじゃなくて。
 
一生懸命、その企業が求める人材になろうと努力してたんだけど、それが空回りしちゃってさぁ。理想のリーダーみたいなものに近づけるように努力してたんだよね、きっと。

小室

企業が求める人物としても居れそうな感じですけど。

内堀さん

いやぁ、いわゆる「資本主義」のスキームみたいなものに自分が当てはまるのが違和感があった。そもそも世の中のいちばんのベースは何なのかって言った時に、資本主義だって言う人も結構いると思うんです、今の経済的に。でも俺はその下がもちろんあると思ってて、普通に「いのち」だったりとか。
資本主義のゲームで求められる人材になろうと求めていく人生が果たして良いのか?っていう。

小松

そこが転機というか、気づきというか。

内堀さん

まあもちろん、いろいろ上手く行かないのと、じゃあ違うんじゃないかなっていうのが同時に起きてるとは思いますけど。

河野

キャリアを捨てるわけじゃないですか、1回。

内堀さん

まぁね。だから次に何が起こるか全く分かんない。とにかく激流の中を岩に掴まって必死に流されないようにしてたけど、体力だけ日々どんどん無くなっていく、みたいな状態で。その時、奥さんがヨガのインストラクターをやっていて、「その手を離してみたらいいじゃん」って言ったんですよ。「そしたら激流に飲まれるけど、その激流が静かなほとりに連れてってくれるよ」って。

小松

なんて素敵なことを…

河野

すごいストーリーですね。

内堀さん

だから、要はエネルギーの使い方として、静かな所からまた歩き始めればいいんだけど、激流に流されないようにしてるその体力の使い方ってどうなの?っていうことだったと思う。手を離すって勇気の要ることで、離すと「うわぁーーー!!」ってなるんだけど、でも気づくと自分の足で立てる所に行くわけですよ。

自分の体と心が一致していることが「成功」

内堀さん

何をしてる時に自分がワクワクするとか、エネルギーが高まる状態になるかって話で、「時間」について話し始めると、つい熱くなっちゃうんです。朝昼晩とか、春になってきたとか、自然のエネルギーを自分のエネルギーに変えていくことを人間はやっているわけなんですけど、例えば江戸時代の人は電気なんか無いし、ロウソクとかしか無かったわけだから、明るいうちに作業をしましょうと。すごいシンプルなんですよ。暗くなったら体をゆっくり休めて、家族や友人と寄り集まって、暗さや寒さをしのいでいきましょうって。

小松

なるほど。

内堀さん

常に日々生きてる時も、地球と太陽って自転したり公転したりしながら、刻一刻変化しているわけです。その変化によって桜が咲いたり、紫陽花が咲いたりするわけなんだけど、それは「めぐり」が「めぐみ」に変わっていくということ。いかにその「めぐみ」に気づき、もれなくキャッチできるか。
 
具体的に言えば、2月とかまだめっちゃ寒いんだけど、光の量が増えてきて、農家の人とか、例えば北海道に住む人たちとかは、まだまだ寒いんだけど雪解け水で川の水量が少し増えてきたとかで「おおー、春が来てる来てる!」って感じられる、その感覚。
 
あれ? 俺ちょっと、熱く語りすぎてる?(笑)

河野

いや、あのウッポンさんが素敵なのは、自分にとって何が豊かさなのか、幸せなのかってことに真摯に向き合ってる所なんですよ。自分自身のことを置き去りにして、サイクルを回していかないといけないっていう所に陥りがちだと思うんです、特に現代人て。
 
そこはもちろん大事だと思うけど、でもウッポンさんは、まず自分自身っていうものをすごく考えて出した答えについて、素直に向き合っている感じがします。そこが素敵だと思う。

内堀さん

「成功」とかっていうものの定義っていろいろあると思うんだけど、今の時代の成功者って「自己一致」というか、自分の体と心が一致している状態の人が幸せだなって思うし、それはたぶんポイントがみんなそれぞれ違う。そのために収入はいくらぐらい必要か、肩書きが必要であればそれをどういうふうにするのか、とか。そういう所なんですよね。

「暮らし」と「仕事」が近いことが豊かさのヒント

内堀さん

例えば「鎌倉って良い所だよね」と言われた時に、一次産業がすごく栄えているわけでもないし、何が豊かなのかって考えてみると、やっぱり「時間の流れ方」が良いのかなって思う。渋谷で過ぎる1時間と、鎌倉で過ぎる1時間は、同じ1時間でも全然違ったりするじゃないですか。時間と空間、どこで過ぎる1時間かって、みんな全然感じ方が違う。そう考えると、鎌倉の魅力って、やっぱり「時間」だなと思う。その動きの中で出てくる「めぐみ」っていうのを、どう自分がキャッチできるか。昼から夜に突然変わるわけじゃなくて、忍び込んで来てるんですよ。夜が忍び込んで来てる感じに合わせて、内省的な方向に持ってったり、体を休めたり、家族の元に行くとか。

河野

そのリズムに、COBAKABAの時間は合わせてるんですね。

内堀さん

そうそう。パーマカルチャーとかもそうだけど、その農的なサイクルに全て合わせていく、太陽のリズムに合わせていく。だから結果的にうちの営業時間て、レンバイの営業時間とほぼ同じなんですよ。6時ぐらいから働いて、2時に終わる。そこまでは必死に働く。後はまちをフラフラしたりとかね。午前中はパドリングして、午後は波に乗るように。そうするといろんな人との出会いがあったり。

河野

「仕事」も「暮らし」ですね、一体化してる。どうしても離れがちじゃないですか、「働く」っていうことと「生活を刻む」っていうことが。通勤時間一つとってもそうかもしれないですけど、全くかけ離れちゃてる所ってある気がするんですが、ウッポンさんのライフスタイルは、「暮らし」の中に「仕事」もあって、それを一つの中で完結してるっていう印象で、それが豊かさにつながっているなと。一つのアクションとしては、「職住近接」ていうのが、そのライフスタイルに近づく1歩な気がするんですよ。

内堀さん

まぁね、それをみんなやってますよね。

河野

僕らがやってる「湘南WorK.」もそこはすごく意識していて、「働く」と「暮らし」が近くなることが豊かさの一つなんじゃないかと思ってます。

内堀さん

「LIFE」と「WORK」って性質が違う部分ももちろんあるんだけど、関係性って絶対あるから。その関係性が自分の中で分かる位置、距離感でできたらいいよね。

河野

そうですね。

管理のための時間ではなく、自然の時間で生きてみる

河野

ウッポンさんの場合、ご職業柄もあるかもしれないけど、実際に自然のリズムに合わせて生活も仕事もできることって結構あると思います?

内堀さん

あると思うよ。俺は社会に出るときから何となく不自然なものへの違和感があって、ずっと鎌倉に住んでたからかもしれないけど。ずっと右肩上がりし続けるなんて、自然界では違和感でしかない。前年比を常にクリアしなきゃいけないとかさ、過疎がダメだとかさ、そういうの不自然じゃない。循環して春夏秋冬ってありながら、螺旋を描いてちょっとずつ、一周回ってるように見えて前の一周とはちょっとずれてたりとか。そうやって成長したり変わっていくのに。

河野

でも少しずつ気づき始めてる人もいる気がしますよね。ウッポンさん、その先端にいるような印象を受けますけど。成長の限界っていうか、行き過ぎた経済に対してのカウンターカルチャーというか。何となく今、もう少し生活に向き合って日々を大切にすることへ、暮らしも仕事も全て結びつきながら意識が変わっていってる人が増えてる気がします。

内堀さん

「自然の時間」には抗えない。俺は例えば自然回帰とか、自然崇拝を求めてるわけじゃなくて、自分たちの「社会の時間」、待ち合わせしたりとかそういう時間とはもう一つ別に「自然の時間」という、2つの時間で生きてることを忘れないようにしたい。日が出たり、日が落ちたり、夏至になったり冬至になったり、それは良いとか悪いとかじゃなくて誰しもに共通な線として、人が生まれたり死んだりするのも含めて自然の時間というのがあって。別に朝型がいいとか夜型がいいとかいう話じゃなくて、みんなに共通の「真実の時間」に対して、自分がどういう間合いで生きていくのか。
 
暦っていうのにも作者がいて、今のグレゴリオ暦は産業革命の時に導入されて、大量生産をするのに都合がいい。管理しやすいような暦になってるっていうことだよね。でも元々、生きていくエネルギーは管理されるためのものじゃないから。むしろ「いのちありき」じゃないですか。管理のための時間も大事だけど、自然の時間に生きているってことも認識したいよね。そのために二十四節気といった、自然の時間を知らせてくれる地球暦をお店で紹介したりもしています。

河野

時間先生ですね。

内堀さん

コミュニティも、だんだんそのコミュニティが維持できなくなりましたとか、数が少なくなっちゃいましたとかっていうのは、管理志向なんですよ。それを増やさなきゃいけないとか、運営していくのって本当に楽しいのかなって思う。
 
でもリズムっていうかね、例えば鎌倉だと朝6時と夜6時に2回、鐘の音が鳴るんだけど、俺の中では始業時間と就業時間。もしくは毎日日替わりで「今日のごはんは○○です」っていう投稿をいつも同じ時間に上げていくっていうのは、お母さんが「ごはんよー」と毎日やるのと同じで、すごい求心力があるんですよ。それはとても大事なことだと俺は思ってて、同じリズムでまちにビートを刻むっていうことが一つの求心力になるし、どんなコミュニティつくったとか、どのくらい大きくなったとかっていうのは、その時その時のことでしかない。

今回のゲスト

内堀敬介(うちぼりけいすけ)さん

鎌倉生まれ。鎌倉市農協連即売所(レンバイ)の並びで朝食屋「COBAKABA」を営みながら、ミュージシャンとしても活動。最近は俳句を愛好する人たちによる「句会」や、自然の時間を感じる「地球暦」のワークショップなどを開催。鎌倉で、地元住民、移住者、観光客、県外のプレイヤーなどさまざまなレイヤーの人々をゆるやかにつなぐ。
 
朝食屋「COBAKABA」
2006年、内堀さんの祖父母が営んでいた小林カバン店からリニューアルし、普通の家庭料理の日替わり食堂として開業。地域の人たちと共に老若男女「食べる人」も「つくる人」もみんなで「食」が共有できる店づくりをしている。2018年、朝食とブランチをメインとした朝食屋に改め、より一層自然の時間を感じるお店へと進化した。
https://www.instagram.com/cobakaba/?hl=ja
 
内堀さんオススメの地球暦
http://heliostera.com/

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

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