【鎌倉FM 第17回】野菜を作るだけじゃない農業の魅力

今回のゲストは、株式会社鎌倉リーフ代表取締役の田村慎平さんです。かつては新宿のゴールデン街で飲み屋を経営していたこともある田村さんは、2005年頃から湘南で農業を始め、現在は、鎌倉野菜の生産だけでなく、地域に根差した福祉活動や新鮮な鎌倉野菜を生かした飲食サービスの提供などを手掛けています。このコロナ状況下における農業の実態や、この先に見えている農業の可能性についてお話を伺いました。

*今回の収録はオンラインにて行いました。 

目次

新宿ゴールデン街の飲み屋経営から、農家へ転身 

河野

農家になった理由や、法人をつくって農業をやろうと思ったのは、どういう理由からなんですか? 

田村さん

まず農家になった理由は、特に農業に興味があったわけじゃなくて、友人が借りた茅ヶ崎の畑の世話をしているうちに、野菜の作り方なんかを先輩の農家に教わってどんどん農業が面白くなっていったから。でも、ただ単に野菜を作るというだけじゃなくて、地域のお祭りや行事を請け負ったり、子どもたちが社会科見学にたまに来たりするんですけど、そういうことでもつながったりとか、要は農業に携わる中で野菜を作る以外の魅力がある。これは非常に面白い仕事だと気づいて、残りの人生はここに爆進してやろうかなということで、いま野菜を作りながら地域活動もしているんです。

自分たちにしかできない農業を 

田村さん

あとは、自分たちにしかできない農業をやってみたいなと。最近は福祉施設の子どもたちや利用者さんと連携して一緒にやることが面白くて。福祉施設の子たちは非常に安い月給で仕事をしていると聞いて、ちょっと横柄な言い方かもしれないけど、それだったら俺がもう少し稼がせてあげることはできないかなと。そういう場を提供して一緒に農業ができたら面白いと思ったので、その活動をしています。 

河野

僕らみたいな、ふだんあまり畑に入らない人間からすると、意外に畑が新鮮だったりするんですよね。なんかみんなで汗かいて農作業するのが気持ちよかったり。そういうのをもっと開いていくと言うか、みんなで農業に関わっていく、みたいなことが地域でもっと充満してくると良い。担い手が足りないなどの農家さんが抱えているいろんな課題に対して、何か新しい農業の形をつくっていくことをみんなで考えてやっていくのは、とても可能性があるんじゃないかと思うんです。 

コロナ禍の農業への影響とは? 

小松

コロナの影響ってどうなんですか? 実際仕事として。 

田村さん

農業に関していえば、出荷先の問題がいちばん大きいと思います。農産物は意外と売れていて、直売所などの売上げは前年比の1.5倍くらいになっているという話はいろんな所から聞いていますが、鎌倉リーフに関して言えば、鎌倉駅前の小町通りでカレー屋さんもやっていたりするんですよね。僕らが作った野菜を使ったカレーを出したり、加工したピクルスなどを企業に販売したりしているんですが、その出荷先がなくなってしまったので、4月の売り上げは60%ダウンでした。非常に厳しい状況にはなっています。 

小松

そんな中で、こういう状況になったからこそ見えてきたことは何かありますか? 

田村さん

今回コロナが発生して、みんなが同じ方向に向かっているのが非常に違和感がある。みんながちょっと神経質になりすぎちゃって、想像することだったり、食べることさえダメみたいな、そこがちょっと嫌ですね、僕は。やはり品性を保ちつつ、ユーモアがあるようなことは死ぬほど考えた方がいいと思うんですよ、本当に。考えることは無限でいいと思うんです。僕は農家なので、農業でこの状況下で何ができるんだろうってことを、できるかできないかは別としていろんな方と話をして、くだらないことも良いことも話し合える空気感だけは残しておきたい。 

みんな助け合いながら農家をやっていた

河野

田村さん、よく言うじゃないですか、あの「結(ゆい)」っていう精神。そういうことがまさに今試されているような気がします。 

田村さん

「結ぶ」と書いて「結(ゆい)」。農業は昔「結」という思想があって、今は会社勤めの人が多いですけど、日本人はほとんど農耕民族で農家だったわけで、戦後数年までは農家だらけだったわけです。で、お互い協力し合わなければ生きていけない社会だったんですよね。社会の仕組みがインターネットやいろんなことで変わってきて、ちょっとその頃とは違う空気は感じますよね。マイノリティの人間の思想・発想を非常に叩く風潮があるかなと。僕は酔っ払ってしゃべるといつも叩かれてますけど。それがちょっと今回多いなぁっていう。 

シンプルに生きるという「美徳」

小松

田村さんにとって「働く」ってどんなことなのか、今の段階で思うことを教えてください。

田村さん

「働く」という意識を、俺は一度も持ったことないんですよね。今もそう。要は、関わったことだけを一生懸命にやる。一生懸命、面白がってやっていって、だからこそ仕事も転々としちゃったんだけど。「清貧」という言葉を知ってる? 昔、日本人の美徳として、お金を稼ぐとか、派手に遊ぶとか、Facebookでこんなご馳走食べましたとかをしょっちゅうアップするようなことじゃなく、要は「清く、貧しく、美しく」みたいな、「質素に生きる」ということが実は美しかったりもするんです。農家のばあちゃんとか見てみると、食べてるものは本当に地味なものでございますよ。でもね、美しいわけ。しかも美味しそう。おむすび作って、タクワン付ければそれでもういいんだよ。そういう基準でいると、けして貧しいとか、収入が少ないとか、そういうことは価値としてあまり意味がない、という感じがしてきますよね。 

自分なりの死生観を持ち、ユーモアを忘れずに 

小室

田村さんがこれから向かう場所というか、今のこの連続でやるべきことをやっていくのか、それとも今後何かまた違うことを考えているのか、いかがですか? 

田村さん

農業って野菜作ることなんですけど、僕の場合は野菜作ることじゃない所に興味を持ってやっているので、ユーモアを忘れずに、コロナのこのご時世でも、お金のこともそれはあるんですけど、基本はやはりユーモアを持ちつつ、死生観を自分できちんと持ちながら生きていくってことが、やっぱり贅沢なんじゃないかな。そしたら何でもできちゃうよ。

想像したり考えたりすることは無限だと思うので、そこは感情的にならずにみんなで議論、討論して、どう進めたらいいのか僕自身も自分を戒めながら考えながらやっているんですけど、難しい話もみんなもっと笑いながら話そうよ!と思う。深刻になるばかりじゃ何も生まれないから、深刻になる話だからこそ、笑顔やユーモアも持って話し合えたらいいかなという感じがしますけどね。 

今回のゲスト

田村慎平(たむらしんぺい)さん 

鎌倉市在住。高校卒業後、報道カメラマン、ドキュメンタリー番組制作を経て新宿ゴールデン街に「bar Evi」をオープン。 2005年頃から茅ヶ崎で農業に携わり始め、2016年に鎌倉市にて農地所有適格法人(旧:農業生産法人) 株式会社 鎌倉リーフを設立。仲間と農地を開墾して少しずつ拡大し、現在約1ヘクタールほどの農地で鎌倉野菜を中心に生産を行い、直売所「鎌倉野菜市場 かん太村」にて販売している。小町通りで飲食店「ドッキリカレー かん太くん」を営業。 

>>鎌倉野菜の驚きと感動を届ける「鎌倉リーフ」 
https://www.kamakuraleaf.com/

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

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