今回のゲストは、藤沢市で「ムギナミベーカリー」店主の青木智和さんと青木麻衣子さん。辻堂サーファー通りにあるベーカリーショップを営む傍ら、実行委員会の一員として「辻堂ローカルマーケット」を定期開催するなど、地域に密着した活動をされています。県外から移住してきたお2人が、地域に根差していくために大切にしていたものとは?
東京から移住して店を開く
そもそも辻堂のご出身でいらっしゃるんですか?
いえ、違います。移住組ですね、東京から。
お子さんが出来たのをきっかけに?
そうですね、東京で長女が生まれて、もう少し環境の良い場所で子育てしたいという話になって、「通勤圏内で海が近い」という所を探して。
湘南にあまり縁(ゆかり)はなかったんだけど、この立地と環境と、という所で?
はい、条件が合って、全く未知の地に突然引っ越して来ました。子育てと環境…ずっと僕はサーフィンをやっていて海が好きなので、できたら海に近い所がいいなとずっと思っていたので、ここになっちゃった(笑)
都内のお店で修業をされて?
そうですね。働いてみたいなというお店を転々としてみて、勉強してました。
機が熟して独立しようというタイミングがあったんですか?
タイミングというか、こういう仕事をしていると、やはり目標は「独立できたらいいな」という方が多いと思うんですけど、独立できる確率は非常に低い中で、たまたまタイミングやいろいろな条件が合って、思い切って独立したという感じです。特にどこでお店を出したいというのはなかったのですが、偶然が重なり合って、独立できるタイミングができた時に茅ヶ崎に住んでいたので、近所でお店が開けたらなっていう。
勢いも大事、信じてやり続けること
やはり順調じゃなかった部分もあるかなと思うのですが…
今でも常に順調じゃない、かなり(笑)
ローカルに定着するというか、愛されるまでに、そんなに一朝一夕では無いと思うので。
そうですね、悪戦苦闘しながら、まあでも自分のやっていることを信じて地道にやり続けていたら、なんとなく来てくれるお客さんが増えてきて、まだ軌道には乗っていないですけど、ようやくなんとかやって行けるなというぐらいの状況にはなっています。
移住してお店をやりたいっていう方もたくさんいらっしゃる中で、好例だと思うんですよね、モデルケースというか。何かヒントになればと思うのですが。
まあ、もうちょっとリサーチした方が良かったかなと思う時もあるんですけど、商売って「あきない(商い・飽きない)」ってよく言うじゃないですか。本当に毎日違うので、やはりリサーチやデータだけでは見えない所ばかりなんです。なので、これから何かしたいという方がいるのであれば「勢いも大事ですよ」とお伝えしたい(笑)
大事!(笑)
最初は軒下のウッドデッキから始まった
「辻堂ローカルマーケット」にとても興味があって、あの始まりを教えていただいても良いですか?
あの始まりは、お店がオープンして間もない頃に、堀さんという方が辻堂に住んでいて、「エコ・サーファー」という団体をつくってエコに特化した活動をしていたんです。その営業で突然お店に現れて、その時に意気投合して、今でもすごく仲良くしている友達なんですけど。その堀さんからある日突然「何かやりたい!」って相談があり、「だったら、このお店の前のデッキのスペースを使ったらどう?」「じゃあマーケットをやろう!」という話になって、そこから始まったんです。
このウッドデッキから始まったんですね!
しばらくずっとこのお店の前でやっていましたよね。
そうです。最初の名前は「辻波朝市(つじなみあさいち)」といって、それを2、3年続けた所で堀さんが引っ越してしまったので、一旦そこで終わったんですけど、その時に参加していたメンバーが「やっぱりやりたい」と言うので「辻堂ローカルマーケット」というのをここでしばらくやったんですよ。
それもここで? へぇー!
そういうのがこのエリアにはあまりなかったので、お客さんがすごく来てくださるようになって手狭になってきて、道路に面しているので少し危険な感じもあり、そんな時に、それもたまたま横のつながりで海浜公園でやらせていただけることになったので、あちらに移動したんです。だからけっこう歴史は長いですね(笑)
その成長していく過程で何かこう、叶えられて来ていることってありますか?
大きくしようというつもりは全くなくて、自然の成り行きで今あんなことになっちゃってるんですけど、特に叶えられたことと言うと、いちばん貴重な体験はやはり「横のつながり」。みんなで協力してやるっていう形ができてきているのかなって。
マーケットで地域の「日常」をつくる
初期の頃から毎月やられていたんですか?
そうですね、毎月。
けっこう体力が要りませんか? 私は自分でも小さなマーケットをやっているので、毎月本当に大変だなと実感しているんですが。
はい、毎月大変です(笑)
でも、それができたのって、なぜなんでしょうね?
僕らは移住組で、違う土地から来てここで商売をさせてもらっているので、何か地域に貢献できたらなという気持ちは常々持っていて、それを堀さんが形にしてくれたという感じですかね。
毎月第2日曜日が近づくと、「あっ、今週末はローカルマーケットだね」というふうになって来ている?
そうですね、そうなればいいなぁと思ってやってますね。それこそ、それを目掛けて来てくれる人の他にも、何気なくお散歩の途中にたまたま、みたいな人も半分くらいいらっしゃるので、コミュニティとしてはとてもゆるいですよね。
でもマーケットはその偶然性が大事だったりもしますよね。だからこそ定期でやっていくことの大切さを感じます。
だからあくまで「フェス」ではなくて、我々がやっているのは「マーケット」です、ということですよね。
そこは何が違うと思われますか?
私たちが目指しているのは、地元の方たちが休日を楽しみに、ちょっとお買い物をしたり、食べたり、素敵なものを見つけに来たりする、そんなことを目指しているので、そこが違いかも。
「日常」ですね。フェスは「非日常」、マーケットはあくまで「日常」の一部にしてもらいたいなという気持ちです。
フェスとマーケットの違いってそういうことだ!
あまり派手なことはやっていないです(笑)
日常と非日常、どちらも大事だし、どちらもあると嬉しいものだけど、お2人は「日常」をつくっているということなんですね。とても素敵なことだと思うし、そこにかける気持ちや体力、本当に尊敬します。
大変です(笑)
エリアの共通言語を見つける
地域で暮らしていても、なかなか近所の方との接点が持ちにくい現代なのかなという気もしていて、その中でマーケットが果たす役割は大きいと思います。ムギナミさんが地元に愛されたり、ここまでやり続けられている理由の一つとして、海が好きでサーフィンを愛好していて…という所と、この地域と、パンが掛け合わさったと言うか、やっていてつながった実感てあるんですか?
「サーフィン」と言うのはすごいキーワードになっていると思います。
他のパン屋さんにはないキーワードですもんね。
パン屋さんだけじゃなくて、この辺の人たちってみんなすごく仲が良いんですね。なぜかと言うと、やはり共通の趣味を持っているから。例えば自分がサーフィンをしていなくても、海での遊びをみんな共通にしているので仲が良いのかなぁと思います。
地域の共通の言語として分かち合えるのが、この地域はやはり「海」だった、ということなんですね。
今回のゲスト
青木智和さん(あおきともかず)さん・青木麻衣子(あおきまいこ)さん
長女の誕生を機に東京から茅ヶ崎へ移住し、2004年に辻堂サーファー通りで「ムギナミベーカリー」を開店。2人の娘さんを育てながら、地元の人に愛されるパン屋を営んでいる。2008年から、仲間とお店の前のウッドデッキで小さな自然派マーケット「辻波朝市(つじなみあさいち)」を始め、2016年からは毎月第2日曜に県立辻堂海浜公園にて「辻堂ローカルマーケット」を開催。回を重ねるごとに参加者が増え、この地域の名物になっている。
▼ムギナミベーカリー
https://www.muginami-bakery.com/
▼辻堂ローカルマーケット
https://tsujido-local-market.com/