今回のゲストは、AI搭載の農業用ロボットの開発という最先端の事業を営みながらも、鎌倉市材木座の古民家に本社を構えるinaho株式会社 共同代表のお1人、大山宗哉さん。「農業×テクノロジー」、その掛け合わせの先にある人々の暮らしの変化にどんな可能性があるのでしょうか? また、都内に家族と住みながら仕事は鎌倉で、という大山さんのライフ&ワークスタイルにも注目です。
鎌倉で、AI搭載の野菜収穫ロボットを開発
改めて、inaho株式会社がどんなことをしているのか、お聞かせいただけますか?
僕らは野菜の自動収穫ロボットを貸し出して、農家さんの代わりに収穫するというビジネスをやっています。今、日本で農家さんが約150万人いらっしゃると言われているんですけど、2030年には75万人になると予測されているんです。だいたい半分になると。ただ、2030年だと日本の人口は7%くらいしか減らないんですよ。ということは、一軒の農家さんが倍くらい作れるようにならないと、食べ物の供給が不足してしまう。
お米の収穫は機械化が進んでいますが、人間が判断して収穫する「選択収穫野菜」の領域では進んでいないんです。
なぜかと言うと、トマトを例にすると、実が赤くなったら収穫をしますが、隣の実がまだ緑色だったら獲らない、というふうに、野菜の場合は人間が判断をして1つ1つ収穫しないといけない。僕たちは、これをAIで判断してロボットで収穫するということをやっています。今、そういうロボットを開発して、販売ではなくサービスとして提供しています。
農家がクリエイターになっていく
貸し出しですよね。なぜなんですか?
農機具は一般的に7年で償却するので、購入した場合は5年くらいで元を取って、そこから利益になっていく計算です。ところが今、その農家さんの平均年齢が67才なんですよね。となると、67才の人が5年ローン、10年ローンで借金をして買うのかとか、買うことがそもそも良いことなのか、などと考えると貸し出しの方が良いんじゃないかと。
それも今は初期費用&メンテナンス費用0円で貸し出していて、収穫した量に応じてお金をいただくというビジネスモデルでやっています。
農家さんのモチベーションとして、別に収穫や雑草取りをしたくて農家をやっているわけではないんですよね。どうやったら美味しい野菜が作れるか、もっとたくさん量を作れるか、そういうことを考えたいし、試したいんですよ。ところが現状は肉体労働の負担が大きい。なので収穫ロボットを導入した農家さんは、美味しい野菜を作る方法をすごく考えてますね。おそらくみんなクリエイターみたいになっていくんじゃないかと思います。
この仕事をする前は、いわゆるクリエイターがたくさんいる会社で働いていたんですが、集中できる環境がある時のクリエイターはものすごい生産性を発揮するし、どの部分でバリューが出るかというのが、作業じゃない所に移っていくのかなと思います。結局みんなイラレやフォトショを使うんだけど、出てくるアウトプットは全然違うじゃないですか。それと同じで、めちゃくちゃ美味しい!とか、めちゃ赤い!とか、めちゃでかい!とか、そういう野菜が生まれるのが楽しくなるのかなと思っています。
農家と開発チームをつなぐコミュニケーターを募集中
その中心にinahoさんがいるんですね。そういう未来を頭の中で描きながら、ここで働けたら楽しいだろうなって勝手に想像しちゃいました、このチームに入った時の自分を今(笑)
俺たち、めっちゃ良いことしてるじゃん!みたいなね(笑)
実際に今、募集している職種などはあるんですか?
農家さんと開発チームをつなぐ「アグリコミュニケーター」を募集中です。
それは各地を巡回して、みたいな形でしょうか?
そうですね。
「アグリコミュニケーター」って、エンジニアじゃなくていいんですか?
もちろんそうです。
へぇー、じゃあ農家さんと仲良くできればいいということですね?
はい、本当にそうですね。
僕、できるかもしれない!(笑)
いや、私もできるかもしれない!(笑)
(笑)
世界においても、inahoさんのようなサービスは他に類を見ないものなんですか?
僕らも、他にもあると思っていたんです。そしたら無かった。
すごい!
正確に言うと、ロボットは作っているけれど、どこもリリースできていないんですよね。日本も90年代頃からずっと研究しているんですけど全然できていなくて、結果的に僕らがいちばん早く出すことになったんです。たまたまですけど。
鎌倉はサポーティブな町
鎌倉に本社がある理由も、一つには起業する時に「カマコンバレー」というグループがあって、鎌倉関連の方や鎌倉にお住まいの方から出資いただいているという背景があります。このエリア自体がサポーティブということはあると思います。
なんか鎌倉らしいですね。
イノベーションが起きやすい。
イノベーションに対しての協力体制があるというか、関心の高さを感じますね。
自分が最もバリューが出せる環境で仕事を
大山さん、お住まいは?
思いっきり都内(笑)
え?
逆パターンですよね(笑)逆パターンが良いのは、電車がまず混まない。毎日観光の気持ちで通勤できる。例えば駅まで向かう道の途中で海の匂いがしたりするのは、港区には絶対にないので、そういうのは嬉しいですよね、単純に。
でも「もう鎌倉に住んじゃえ」には大山さんはならないんですか?
家族でその話をした時に、奥さんも働いていて、僕は自由にやらせてもらっているので「そこだけは」と(笑)
エンジニアの方たちは、それこそ職住近接したいんですよね。逆に言うと、仕事以外のことは別に考えたくないので、「電車に乗りたくない」とみんな言っています。だから鎌倉に移住しているエンジニアも結構います。僕も結局、オフィスに来ることが絶対条件ではないと基本的には思っています。というのは、会社の机に座っていることが仕事ではないと思うので、いちばん自分がバリューが出る場所で、できるやり方でやってもらえれば良い。やりたいやり方でやってもらってバリューが出るのがいちばんで、それに対してどうやって会社として最低限のラインを保ちながら社会との距離感を測るか、みたいなことが自分の仕事なのかなという気がします。
農家の「時間」を作り出す
気候変動の問題とか、農家さんがすごく大変な状況下にある中で、本当に今inahoさんがやっているサービスが日本の農家を救うかもしれないという、そこの期待値や希望がすごくあると思う。だからこそ、いろんな人が集まって課題を乗り越えていって、inahoさんが大きく成長し始めているという状況だと思うので、僕も「アグリコミュニケーター」として来月からよろしくお願いします!(笑)
(笑)
農家さんが他にやれることが増えるというありがたみですよね。
私もそこにワクワクしちゃった! 新種の農家さんが、これからどんどん増えていくのかなという感じがして。
「農家さんの時間を作り出せている」というのがすごいですよね。
今回のゲスト
大山宗哉(おおやまそうや)さん
メディアアーティスト、大学講師の後、チームラボ株式会社で事業開発に従事。3年後に独立し現在のビジネスパートナーである菱木豊さんと不動産系ウェブサービスを開発・売却後、2017年inahoを設立。AIを搭載した野菜収穫ロボットを開発中。
▼inaho株式会社
https://inaho.co/