鎌倉市の深沢にある屈指の人気店「POMPON CAKES BLVD.」と 「POMPON PANTRY」。この 2 つのお店のオーナーである立道嶺央(たてみちれお)さんが今回のゲストです。決して駅近とは言えないエリアにもかかわらず、遠方からわざわざ訪れる人も多い人気店。そのオーナーである立道さんが、鎌倉で、お店を通じて表現したいものとは?
京都で、茅葺き屋根の職人見習い
レオさんは鎌倉生まれですよね?
生まれは違いますが、育ちは鎌倉です。
レオさん自身は鎌倉から出たことがおありなんですか?
僕は東京の大学を出た後は、数年、京都にいたんです。
何をされていたんですか?
京都で、茅葺き屋根の職人見習いをやってました。
屋根屋さん?
大学で学んだのは現代建築で、バリバリやることを夢見てました。スーパーアーキテクチャーになりたかったし。でも、日本の手仕事などを見つめ直した時に、現場で仕事をしてからでもいいんじゃないかなと思って。
今年4月からということは、それ以前はどこかにお勤めされてたんですか?
茅葺き屋根の職人を何年かやって、親方に「お前は一生やっていくのか?」と言われた時に、「はい」ってすぐ言えなかったので、これはやめたほうがいいと思って。一生懸命やってはいたんですが。それで鎌倉に戻って来ました。
戻ってきて何かやろうと、その時点で考えていたんですか?
建築家になるために、それまでデザインをやったり、何かいろんなことをやって、当時で言う身の丈に合った商売で、3万円くらい稼げる仕事が5つくらいあればなんとか生きていけるかなと思って、こっちに帰って来たんですよ。
良いですね! 若者っぽい(笑)そうなんですね、意外に。
そう、超・若者っぽい(笑)。というか、その時の僕には何もなかったし。
自分の食と向き合って、母のケーキを思い出し
そこからケーキ屋さんを始めるまでの期間はどのくらいあったんですか?
京都から帰って来たのが1月で、その年の7月に始めていたので、半年ぐらいですね。
1月の時点では、構想みたいなものはなかったんですか?
そんなにないです。
そのスピード感の中で、何があったんですか、一体?
いや、何も食べる手段がなくて、でも年齢ももう27才で就職する先もないし、「ヤバイな、この先どうやって生きていこうかな」って。京都にいた頃は本当に田舎の、ここから横浜くらいまで行かないとコンビニがない、みたいな所で暮らしていたんですよ。
ええ?!
だから自分で料理をして、畑をやったりしないと生きていけなくて。そこで自分の食生活みたいなものをいろいろ感じていた時に、もともと母親が昔から丁寧にごはんを作ってくれていたのが思い出されてきて。それまであまり意識はしてなかったんですけど、改めて母のケーキが美味しいなと思ったんです。だったらもう少し世の中に出るようなことをやっても良いんじゃないかなって。その当時は、母に作ってもらったものを僕がディレクションして売るという形を取ればいいかなと思ったのと、身の丈に合った商売という所が始めたきっかけです。
そこから移動販売になっていったということですね。
そうです。「いろんな仕事をやりたいなぁ」の一つとして、ケーキを自転車で売るって面白いなと思って。
ケーキを媒介に町を感じる、町と関わる
そのヒントはどこで得たんですか?
ちょうど当時アメリカの西海岸のカルチャーに触れる機会があって。自分もサンフランシスコが好きだったし、アメリカの建築家も好きだったので、昔からよくアメリカに行っていて。
特に2011年頃は、シェ・パニースやアリス・ウォータースの本が出たり、サンフランシスコ界隈の「食」のカルチャーが成長してきている時で、自分と同世代の子達が「食」を媒介にして町の人たちとつながって、町のカルチャーをつくる、いわゆる「まちづくり」をやっているのを目の当たりにして、「あ、これって建築だ」って思ったんです。僕はこういう手法で建築と関わることもできるんじゃないかって。
しかもそれを持って、自分が戻ってきた「鎌倉」という町を再考すると、わりと西海岸の空気とか、住んでいる人々のレイヤー感とか、いろんな部分ですごく重なっていく所があって。「自分がやりたいことって、自分が育った町にけっこうフィットするんじゃないかな」と思うのと同時に、路上に観察に出て、鎌倉の町のストリートを肌で感じるというのを今はやりたいなと。
その上で、コーヒーはやっている子達がだいぶ出てきたから、僕は母が作ったケーキ、甘い物で町とつながっていくというのが面白いなと思って、やり始めたんです。
そうか、大きな意味で捉えると「建築」なんだ。
そうです。建築も、町とつながるアウトプットの手段の一つだと思うんです。コミュニケーションとか言語も、何でも大きな枠組みで見たらやっていることは同じだなって気づける日がパッと来たんですよ。僕にとってはケーキも、店も、洋服作りも、全然違うことをやっているわけではなくて、全部人と人とがつながる「媒介」にすぎないので、それをどう表現するかとか、町にどうフィットさせていくかということの方が興味があるんです。
ビジネスを「小商いのスピリット」で行う
小商いは本当はルールがなくて自由なものなのに、いつの間にか「小商い=こうじゃなくちゃいけない」「小さくなくちゃいけない」とか、いろんな「型」にはまって行くのはすごく窮屈だと思っていて。
「小商い」って本当はもっともっと大きな枠での言葉だと思う。ビジネスが加速して大きくなって、でもその中で、それを「小商いのスピリットでやれる」というのがいちばんだなと思っているので、その精神性の話だと思っているんです。
「世の中を変えたい!」という思いが昔はすごくあって、いろんなことに絶望してきたし、いろんなことを諦めたこともあったけれど、日々の中の幸せの積み重ねがすごく大事だと思う。自分も含めてスタッフや周りの人達が「POMPON」という媒介に触れて少しでも幸福度が上がっていくのが良いなと。
あとは、やはり町の中に素晴らしい業態のお店とかビジネスがたくさんあるのを、町の助け合いの中で、どう維持したり、存続させていったらいいのか、という可能性を探りたいなと思っています。そういうものを、持ちつ持たれつの関係で、要はビジネスも大事だけれども、それ以上の所で支え合いながら町を形成していけるというのが、「豊か」なんじゃないかって。
今回のゲスト
立道嶺央(たてみちれお)さん
2011年から鎌倉で、オーガニックな素材を使ったアメリカンケーキの移動販売を開始。町のあちこちでカーゴバイクや屋台による出店を行い、その日の居場所をSNSで発信するとすぐにケーキが売り切れてしまうほどファンを増やす。2015年に、自分が育ったエリアである梶原に実店舗「POMPON CAKES BLVD.」をオープン。2018年には同じ通り沿いに、オリジナルデザインの洋服や小物、製菓材料などを取り扱う「POMPON PANTRY」も開業。洋服の製造も、パタンナーや縫製の経験を持つ近隣の人材を雇用して行っている。
▼POMPON CAKES
https://www.facebook.com/POMPONCAKES/