今回のゲストは、株式会社フジマニパブリッシング 代表取締役の三浦悠介さん。藤沢を拠点に、フリーペーパー「フジマニ」や、コワーキングスペース「ネクトン」など、多岐に渡るサービスを展開しています。地域に根差した新しいサービスを時代と共に提供し続ける三浦さんが、湘南で暮らし、働くことをどう捉えているのか? お話を伺いました。
大学に行かずに自由に過ごした1年間で得たもの
大学に行かずに、1年間自分の好きなことをさせてくれ、という時期があったんですよね?
そうですね。高校を卒業した後に、大学に行くのをやめて、親に「アルバイトで自分で稼いだお金で、自分で勝手に何かを学ぶから1年くれ」という話をして。料理が好きだったので、コックとして朝から夕方まで働いて、稼いだお金でバイクの免許を取ってみたり、旅行に行ってみたり、格闘技を習ってみたりと、わりとやりたいことを何でもやった1年があったんです。
何を得ましたか?
何も見つからなかった、ということを得ましたね、本当に(笑)
自分探しでそんなことを得た(笑)
1年間それをやって「さて」と思った時に、「ああ俺、何も見つからなかったな」ということに気づいて非常に焦り始めて。唯一、ちょっと興味があったのがコマーシャル。当時『広告批評』という雑誌があり、それを定期購読していたんですが、そこに「広告学校生徒募集」というのが出ていて、要は社会人セミナーみたいな半年間の短期集中の講座なんです。電通・博報堂などでまさにバリバリ広告を作っているトップランナーが教えてくれる、というのが良くて半年間通いました。それがなんとなく、自分のフリーペーパーの原点かもしれない。
へぇー。
学ぶ環境に自分の身を置かないと、なかなか学ぶモードに入らないんだとあの1年で分かり、広告学校に18才で行ったわけです。そして19、20才の頃がフリーペーパー立ち上げの時期でしたね。
地元の古着屋さんを紹介するフリーペーパーから進化
三浦さんは、生まれも育ちも藤沢ですか?
そうです。僕は藤沢市の辻堂が実家で、この町で生まれ育って、もともと高校卒業するまでは古着屋さんが大好きだったんです。その古着屋さんたちの嘆きとして「みんな横浜や東京に行っちゃうから、藤沢の古着は売れねぇんだよなぁ」みたいなことを言っていて。「じゃあ、藤沢の古着屋さんを紹介する町の新聞みたいなものを作ったらどうですか」と言ったら、「広告費出すよ」と言ってくれて。
広告学校も良い意味でシビアに教えてくれたのが、「君が本当に広告業界で上を目指して行きたいんだったら、まず大学に入り直しなさい」と。でも僕は大学に入り直すのは嫌だなと思って、「じゃあ、地元でやれることを考えてみます」と。それでフリーペーパーに行き着いたのが発端だったんです。
ところがアメリカ古着のブームが去ってからがまぁ大変で。そこから古着屋さんのフリーペーパーじゃない所に立ち位置を変えなきゃいけなくなった。ファッション・マガジンからライフスタイル・マガジンみたいな所へ徐々に変えていったんです。時代が、というか、ある意味で僕のフェーズが変化したという理由もあるんですけど、スタート時点では僕自身が古着が好きだったから古着のフリーペーパーをつくり、飲食店さんや美容室さんの紹介も載せていた。その後、時代は女の子がつくるものだと分かり始めてからは、女性向けの記事も増やしていった。僕自身の成長に応じてフリーペーパーでも取り上げる内容が変わってきたというのはありますね。
カフェみたいな仕事場をみんなと共有
そのフェーズの変化と共にコワーキングも事業の中に入ってきた、という感じなんですか?
そうですね。正直、オフィスにいるよりもカフェで仕事する方が捗った実感があったので、カフェみたいな仕事場がつくれたらいいなと。でも、その仕事場を僕が占有するのはあまり意味がないから、みんなが出入りできる場所にしたらいいかな、と思っていた時に「それってコワーキングだよ」と教えていただいて。じゃあそのコワーキングスペースというのを、自社オフィスも兼ねてつくってみようとなったのが2015年ですね。
三浦さんが思う「コワーキングの意義」って、どんなものですか?
コワーキングスペースは、「カフェでもいいんじゃないか」「シェアオフィスと何が違うの?」などと言われがちなんですが、コワーキングの良い所は、前に進もうとしているポジティブな人しかいないこと。何らかのスペシャリティを持っているプロフェッショナルたちと同じ空間を共有できるという点と、そういう人たちがバリバリ仕事をしていると「なんか俺も頑張んなきゃ」という、空気としてやる気になる点ですよね。頑張っている人たちの中に自分の身を置けるのがコワーキングの良い所です。
地元にいる、スキルを持つ女性の力を生かす
私が個人的に聞きたいのは、女性の社会進出について。三浦さんはどう感じているんだろう?というのが気になるんですが、いかがですか?
実はうちの「フジマニ」編集部も全員女性なんです。やはりこの辺に住んでいる女性はスキルがある方がすごく多くて、それを生かさないのはもったいない。多大な社会的損失だと思うので、ちゃんと適正なフィーをお支払いして、自分のスキルを生かした仕事をしていただくべきだと。僕は今のママさんたちが働きやすい環境を用意して、自分のスキルに合った仕事をしていただくのが大事だと思う。「ネクトン」も、この藤沢店と北口店と湘南店では提携している託児所があって、お子さんを預けながら働くことができるように整えているんです。
満員電車の対価は1日3000円
とは言え、なかなかその適正な仕事が見つからないとか、やっぱり踏み切れない人もけっこう多いんですよね。それは収入が都内でもらっているよりも減るとか、いろいろな壁があると思うんですけど。
こないだうちのフリーペーパーで、「この町で働く」という特集をやりまして、その扉で「満員電車の対価は3000円」って書いたんですよ。神奈川県と東京都の給料の差を調べると、月収で約6.6万円くらいなんです。その対価として2時間満員電車に乗っている。その6.6万円を22日くらいで割ると、往復で3000円、片道で1500円。その往復3000円が一応対価として支払われて、2時間を捧げているわけです。だとしたら、月収が6.6万円減ったとしても、その2時間分を有効利用できるのであれば、もしかしたらプラスオンで稼げるかもしれないし、満員電車でストレスを抱えて結果的に病気になっちゃったり、家族不和が起きたりするくらいだったら、他のことに使った方がクォリティ・オブ・ライフが良くなるかもしれない。ライフスタイルを見直して、「暮らしやすい」という所に自分が立てるんだったら、意外と転職して地元で働くのもありかもよ、という考え方も一つの可能性としてあるんじゃないかと。
湘南×自分のスペシャリティを副業に
もう一つは、湘南はみんなが思っている以上に価値が高い場所だと思うんです。例えば、いまこれだけ外国人の方が湘南にいらっしゃっている中で、ローカルと触れ合える民泊をやったりして、それが都内で働く分のキャッシュを補填してくれたら、その「民泊をすること自体が面白い」プラス「自分の仕事」もやれて、結果的にトータルで手に入るお金は変わらなかったり。
湘南だからできるやり方もあると思うし、何か自分のスペシャリティに照らし合わせて「俺だったらこれできる!」みたいなことを副業として持つのは誰もがチャレンジできることだし、やってみても良いんじゃないかなと思うんですよね。
視点をどこに置くか、という所ですよね。前の収入だけに捉われてしまうとなかなか難しいかもしれないけど、やはりクォリティ・オブ・ライフ、ライフスタイル全般で俯瞰して見たときの豊かさみたいなことを少し意識していけば、このエリアの中で仕事も暮らしも十分可能かもしれないですよね。
あとは、いま働いている会社に「リモートワークを導入しましょうよ!」みたいなことを言って、もういっそ「出社しない方が俺はポテンシャル高いんです」って言い切って会社自体を変えちゃう、みたいなことはチャレンジとしてあっても良いんじゃないかなって。
こないだも台風で、でも出社しなきゃいけないって言って、駅に2時間並んでる列とか、これがまだ現実なんですよね。
ここからでしょうね。
働き方の選択肢がまずあって、そろそろ企業がそれを検討できる段階に来ている。そういう選択肢を、三浦さんが先駆的につくってくれてたってことですよね。
*収録・撮影:コワーキング&シェアオフィス「ネクトン藤沢店」
現在、ネクトンでは都内通勤者向け新型コロナウィルス対策臨時プランを提供中です。https://www.nekton.life/
今回のゲスト
三浦悠介(みうらゆうすけ)さん
藤沢市生まれ。2003年、20才の時に独力で取材・編集・デザインしたフリーペーパー「フジサワマニア(現・地域情報誌フジマニ)」を創刊。 2008年に法人登記し株式会社フジマニパブリッシングへ改組。2015年、オフィス兼コワーキングスペース「NEKTON FUJISAWA」をオープン。現在、北口店、湘南店、大船店(フランチャイズ)を展開している。「フジマニ」は今年で創刊18年目に突入。
▼株式会社フジマニパブリッシング
https://www.nekton.life/operatingcompany/