新型コロナウィルスの影響により、暮らしや仕事の環境が大きく変化している今、内面の変容を感じている方も多いのではないでしょうか。人類はこれからどこに向かおうとしているのか? そのヒントを求め、今回お話を伺ったのは、株式会社ヒューマンポテンシャルラボ代表取締役の山下悠一さんです。「人類の未知なる可能性」を追求するべく、新しい体験プログラムやテクノロジーサービスを提供しているヒューマンポテンシャルラボ。その拠点である研究所 「Human Potential Lab 鎌倉」、通称「銀河荘」を訪ねました。最新の科学やテクノロジーを駆使した新時代の体験の先に見えるものとは?
銀河で夢を釣る。マインドフル・ライフのためのプログラムを提供
新年1発目です!
ありがたいですね。
2021年最初のゲストということで、これからの時代のことや、マインドフルネスなど自分自身と向き合うという面で、ぜひお話を伺いたかったんです。
まずこの場所がすごい!
この場所は何なんですか?
名前が「銀河荘」。
そうなんですよ。ここはね、鎌倉の聖地の一つなんですけど(笑)、「銀河で夢を釣る」というのがこの場所を提供いただいているオーナーさんの思いで、鎌倉山のいちばん上にあるんですよね。この「銀河荘」という場所で、みんなで夢を釣ろうと。
施設を拝見させていただきましたが、ドーム型のかなり本格的なサウナがあります! そしてもう一つ、名前が覚えられないんですけど…
「フローティングタンク」。
フロート(float)…浮く?
まっ暗なボックスの中に入って瞑想をするんですが、その中には「エプソムソルト」という、死海の水みたいなとても浮力の強い、塩のようなものが溶けた水が入っているんです。そこにまっ裸で入ってまっ暗な中で浮くと、ふつうに瞑想するよりも、周りに何もない中で浮遊しているような感じで、身体感覚が研ぎ澄まされた状態で瞑想ができるという装置です。
体感しないと分からないですね、ぜひ体感したい! そんな銀河荘で、どんなことをされているんですか?
今風に言うと「マインドフルネス」とか「ウェルネス」「ウェルビーイング」、そういうものを日々の中でどんどん実践していくということを、みなさんに促したいので、その人に合ったマインドフル・ライフを実現するために、我々がいろいろなプログラムを提供しているんです。
具体的にどんなプログラムがあるんですか?
一つは森に行きます。真夜中に目隠しをして、ボディペインティングをして、尻尾とりゲームをします。
面白い!
ええー?! すごい!
これまでの脳中心社会の限界を乗り越えるには?これまでの脳中心社会の限界を乗り越えるには?これまでの脳中心社会の限界を乗り越えるには?
一例としてそういうプログラムがあるんですが、これは一般的なマインドフルネスなどの概念と、少しイメージが違うじゃないですか。
でも、ものすごく夢中にはなりそう、その瞬間に。
僕はもともとコンサルティングをしていたんですが、今までの時代は、我々は「左脳」中心というか、「できるだけ論理的に」とか「できるだけ正しい答えを導き出す」というふうに、けっこう脳を中心に生きてきましたよね。まさにこの「脳中心社会」になってしまっているところが最大のボトルネック。
なぜかと言うと、脳細胞の立場になって考えてみてください。脳細胞って目を持っているわけじゃないでしょ。この状況をどう見てるかというと、過去の状況に基づいてデータで予測したものを見ている。ということは、過去に嫌な体験や感情的に揺さぶられるような体験をしたとしたら、「もうあれと同じことはしたくない」などと、出来事にバイアスをかけて見るんですよね。それがこの思考中心で考えている世界の限界なんですよ。
そこでマインドフルネスは「“今ここ”を大切にしながら生きる」という生き方のことを言っているんですけど、「“今ここ”を大切にする」というのは非常に深くて、「本当に今までの思考に囚われずに、感覚的、あるいは体感的なポテンシャルを発揮して、まるで初めて体験するかのようにそこに居合わせる」ということなんですが、今までの自分たちが見ていた世界を乗り越えて、そういう状態になっていくには、かなりトレーニングが必要なんです。
脳のシナプスが過去のデータとものすごく密接につながってしまっているから、五感を使ったワークや感情をトレーニングするワーク、体を使うワークなどを行うことでその「囚われ」を打破し、新しい時代の中で、今までと違う新しい認識や発想を持たないと、それこそ今の社会は良い方向に行かないんです。
思考に囚われない。体験を通じた自分のOSの書き換え
すごいですね。もし私が目隠しをして、ボディペインティングをして、森の中に行ったらどうなるのか? って、やったことはもちろんないですし、今までの先入観のもとではどういうパターンが出てくるのか想像がつかない。やってみたいと思う反面、やはり少し怖いですね。
そう思っちゃうってことだよね、最初は。
人が集まると、すごくリーダーシップを発揮して、細かく計画を立てて、こうしようよ!って人いるじゃないですか。それは、その人の「パターン」なんです。でもその人は、そのやり方ではうまく行かないということにも徐々に気づいてきていたりする。
要は、リーダーなんだけど自分がカリスマになっちゃって、人に任せることができなかったり、全部自分がやらなきゃいけないと思っちゃったりして、自分の中でももどかしい思いを抱えている。強いリーダーシップを持っている人でも、そういう内面的な限界を持っているんですね。
例えばそういう人が目隠しをして先程のワークをするとどうなるかというと、うまく行かないわけです。最初に目が見えている状態で作戦会議をする。彼が仕切って「こういう時はこうしよう」と言ってやってみるんだけど、いざ全くやったことのないことをやっていくと、想定外のことばかりが起きる。そうすると、最初に戦略や計画を立てていることが、全く無意味になって行くんですね。今の世の中、そうなってません?
なってる。すごい縮図だと思う。
まさに縮図で、そんな計画的・戦略的、つまり「思考」を使ってなんとかしようということが、もう世の中的には無理なんです。コロナもそうでしょ?想定外のことがずっと起き続ける。そんな時に何が必要かというと、彼にはやはり「信頼」が必要なんだってことに、そのワークをやって気づくんですよ。「俺はみんなが完璧な仕事をやってくれると信じるしかないんだ」って。
というのが、彼にとっての心、彼のアイデンティティの中にあった欠落していた部分というか、チャレンジする「OS」の成長なんです。自分が手放すとか、みんなを信じることの方が、自分がなんでも計画を立てているより大事だってことを理解するんです。
こんなゲームは日常の中では絶対に起きないけれど「同じパターン」は必ず起きていて、そこに陥りそうになった時に「ゲームの時のあの感覚だ」ということを思い出せば、パターンに囚われない所へ戻れる。「体験」によって「内面のOS」が書き変わるんです。だから「体験」がキーになる。
サステナブル・パフォーマンスのために必要なこと
その体験が、ここでできるんですね。
それを、アクセンチュアでコンサルタントとしてバリバリやっていた山下さんがやっているのが面白いよね。
どうしてそうなったんですか? いつからそっちに舵を切ったんでしょう?
みんなそうやって「逆に行った」みたいに言うんですけど(笑)、僕の中では完全に今までやってきたことの延長線上にいるつもり。僕は今、ヒューマンポテンシャルラボで「ポテンシャル」ということを言っていますけど、パフォーマンスというのは、木があって、木の根っこは見えていなくて、木の上の部分でとりあえず肥料をバンバンやって、どんどん早く成長させて、早く果実を採ろうという、これが「パフォーマンス・ドリブン」の今までのやり方だったんです。そうすると、この木の「土」自体はどんどん痩せ細っていってしまうんですよね。だからみんな体や心を壊してしまう社会になってきている。
フルポテンシャルを発揮するためには、やはりこの土をちゃんとつくっていかなくちゃいけない。「サステナブル・パフォーマンス」というのが一つのキーワードなんですが、それが社会のサステナビリティとも呼応していて、僕らも体や心、つまり「土」にあたるところが整っているから、持続的に幸せでありながらパフォーマンスを出し続けることができる。
目標があって、行動があって、思考があって、その下に感情があって身体があるという、ここまで掘り下げて人材開発をしないと、最高のフルポテンシャルは発揮できないということに行き着いたんです。
それが延長線上だという意味なんですね。
そうです。「ウェルビーイング=幸せ」と「ウェルドゥーイング=パフォーマンスを出す」という、この両立をいかにしていくのか? というのが、僕がコンサルタントを辞めた時に行き着いたテーマで、それをずっと探究しているんです。じゃあ、それはどうすればいいのか? ということを。
問題なんて本当は何もない。本質的なウェルビーイングへ
山下さんがそうやって一人ひとりの意識を変えていくその先には、逆の発想でいうと「このままだとヤバイぞ」みたいな危機感があったりするんですか? それは今の社会や地球なのか…そういう問題意識があるんでしょうか?
実際は問題なんて何もないんですよ。
え?(笑)
ぶっちゃけて言うと。本当に。
かっこいい!
だって「サステナビリティ」なんて言ってる動物いる?(笑)。我々人間だけだよ、そんなこと言ってるの。それは勝手に自分たちで問題にしているだけであって、そういうゲームを楽しんでいると言ってもいい。
ということにみんなが気づけば、核心はやはり「気づく」ということで、僕らはやはり、自分が思っていることが正しくて、何か間違っていることがあって、それを解決しようというパラダイムで生きているんですよね。そのOS自体が変わっていくと、もっとみんなハッピーにサステナブルに生きていけるんだろうなっていう確信がある。
なぜなら結局、星は生まれて死ぬわけだし、我々人間も生まれて死ぬわけなので、結局死ぬんですよ。サステナブルと言っているけど、みんな死ぬ運命なんです。だとしたら「生きる」と「死ぬ」の間の、今この瞬間にどれだけそれを味わい尽くすという、それでしかないわけです。
だけどみんな過去のことを引きずり、未来を憂い、今が問題だらけだというパラダイムの中に生きているからもったいない。ずっと変わらず幸せだという状態が、本当に幸せかというと、それは間違っている。西洋的なウェルビーイングの考え方だとそれを目指しがちなんです。そういう「得」のある状態をいかに早く目指すかという。
でもそれは、僕が考えるウェルビーイングではない。嫌な感情や不幸もどれだけ味わい尽くせるか、と考えると、問題ないでしょ? 人生はそれがあるから楽しいんだもん、その逆の喜びがあるわけでしょ。というエクスペリエンス(体験)を一緒に楽しもうよ、というのが僕がやっている活動です。
大いなる和の国「日本」が世界の未来を変える
でもやはり、これからの世界を変えていくのは「日本」です。
へぇー? それはまた、どういうことですか?
そう思いません? 地政学的にも、日本は今、中国とアメリカがバチバチやっている真ん中にいるじゃないですか。これはやはり日本の運命なんですよ。日本は「極東」、大陸の東の果てと言われていて、大陸の人たちは日本まで来たら、そこから先に行けなかったんですよね。だから歴史を振り返っても、いろいろな遺伝子や民族が日本で止まり、実は非常に多様な血がミックスしていたりする。だから大いなる和「大和」という精神が芽生えているわけです。
今までの西洋的な価値観では「日本人は自分が無い」とか叩かれてきたわけですけど、僕がずっと言っている統合的な考え方というか、あらゆるものを受け入れていくという、今こそ優柔不断な日本の自分たちの価値に気づくべきなんですよね。あらゆる価値観を飲み込む。そして、みんなで仲良くしようよっていう。右でもないよ左でもないよ、そこは善悪みんな、裏・表・逆も全部含めて人類でしょと。
そんな価値観を持てるのは日本しかない。災害が起きても行儀良く列に並ぶのは、日本しかないわけじゃないですか。そういう災害みたいなことでも受け入れる、アクセプトするという姿勢があるわけです。
そこが「大いなる愛」というか、世界を包みこむ思想になっていって、西洋の人たちも日本の神秘性みたいなものに憧れ、禅が世界に広まっていったという経緯もあります。だから僕は、鎌倉に会社の拠点を置いているんです。本当にそういう精神革命を世界に起こしていこうと。今朝の僕たちのミーティングでも、地球歴など天文学的な要素もあれば、数学者や瞑想の科学者もいて、多様な人たちがこの銀河荘に集まり、そういう話をしています。古代の叡智から最先端のテクノロジーまで全部融合して、世界の意識を変えていこうというプロジェクトなんです。
*収録場所:Human Potential Lab 鎌倉 https://h-potential.org/
今回のゲスト
山下悠一(やましたゆういち)さん/写真中央
株式会社ヒューマンポテンシャルラボ代表取締役 CEO。アクセンチュア株式会社でコンサルタントとして活躍した後、独立。現在は鎌倉山にある「銀河荘」を拠点に、仲間と共にトランステックを通じた体験・コミュニティ・プラットフォームを提供し、ウェルビーイングとピークパフォーマンスの両立と人類が共に一つにつながる世界を目指している。
▼Human Potential Lab
https://h-potential.org/