【鎌倉FM 第64回】リスキリングの前にやるべきたった一つのこと

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& Column
リスキリングの前にやるべきたった一つのこと

「60歳で定年、65歳まで再雇用OK。国や会社のそのルールに則って60歳からこんなこと始めましたってなんか嫌だなと。自分の意志で辞めて始めるってことを人生の中でやっておかないと、と思ったんです」

自らの意志で54歳の時に早期退職し、住んでいた鎌倉の材木座に「ハルバル材木座」というコワーキングスペース 兼 全国の作家さんのこだわりの品を集めた商店を開いた今回のゲスト 伊藤賢一さんは、自身のセカンドキャリアの始め方についてそう語っています。テレビ業界に32年間身を置き、会社の中では人事部も経験した伊藤さん。そのキャリアを生かし、ハルバル材木座では「ハルバル人事部」と称して、地域の人々の人生のキャリア相談にも乗っています。

一方で大学の非常勤講師も務める伊藤さんは、最近の若者の特徴について「未来に期待していない」と言及。人口増加で右肩上がりに経済が成長し、とにかく働けば5年後10年後の豊かさが予測できた一昔前と違って、予測不可能な時代、さらにはAIの登場で社会の変化のスピードが人間のスピードを超えていくと言われるこれからの時代に、「自分はどう生きたらいいのか、どう在ることが自分の安心や幸せなのか」を考えざるを得ないのは、定年が視野に入った中高年だけではないのかもしれません。

そんな伊藤さんが、道を模索する若者や個人事業主、セカンドキャリアに悩む中高年に対してやっているのが「可能性の芽を教えてあげて、それを一緒にはしゃいであげて、芽が出るところまで寄り添うこと」。話を聴いてくれるカウンセラーやキャリアコンサルタントは数あれど、心の奥にひっそりと萌している「やってみたい」に光を当てて、その人の無邪気な心を映し出すように「いいね!」と一緒にはしゃいでくれて、ハルバル材木座のスペースで実現可能なことであれば場所と機会も支援してくれる、そんな伴走者は稀なのではないでしょうか。伊藤さんにとっての「働く」は、「その先に必ず人がいるもの」だそうです。

「リスキリングとよく言われているけど、まずはやってみること。何かに向かって勉強するのもいいけど、やりたいことをやってみて、必要だったら勉強するのがいいと思う。失敗もするけど、やってみると必要なことが分かってきて、次にすることが見えてくる。“やろうと思っている”ではなく、小さくてもやると、違う未来が待っている」とは、ご自身の経験から出た言葉です。

会社員時代にやってきた人生の時間を逆算するような生き方ではなく、60歳までは流れとご縁に任せてやっていきたいという伊藤さん。物事は直線的な因果関係ではなく、一つ一つの出来事が起こるたびに世界全体に影響を与え合う「縁」から成る、という東洋思想の捉え方を思い出します。もしそうだとするならば、恐る恐る始めるその小さなアクションが、何らかの展開に必ずつながる。「こんなことやったって何になる、こんなことしてても効率が悪い」と、上から目線で自分の希望を叩きのめすよりも、小さな一歩をやれた自分を子どもにするように喜んであげる。きっとそれこそが、ありのままの自分を認めること。

はるばる足を運んで、わざわざ材木座へ伊藤さんに会いに行く。作家たちが日夜こつこつと打ち込んで作る思い入れたっぷりの作品のように、合理性や効率の反対側にある手触りや、愛着や、喜怒哀楽に満ちた行いを現実の世界に積み重ね続ける。結果をコントロールしようとしないそんな生き方に、人間の幸福があるのかもしれません。(森田マイコ)

今回のゲスト

伊藤 賢一(いとう けんいち)さん

ハルバル材木座 オーナー

1966年、長野県生まれ。
32年間勤めた都内の民放テレビ局を54歳で早期退職。
その後、鎌倉材木座に人が集まる場としてのコミュニティスペース「ハルバル材木座」をオープン。
「ハルバル商店」の店主、「ハルバルスペース」の運営、さらには「ハルバル人事部」として個人や企業で働く方々のキャリア支援、大学の講師などを担当。

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

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