【鎌倉FM 第42回】環境問題を私たちらしく発信する。

ラジオ収録 前半

ラジオ収録 後半

今回のゲストは、神奈川県茅ヶ崎市を拠点に活動している地球過保護プロダクション「BENIRINGO」共同代表 田中藍奈さんと阿部汐里さん。茅ヶ崎市の住人約24万人に茅ヶ崎の情報や気候危機の解決策などを共有するために、2019年よりフリーペーパーを制作。その他、マルシェや河口クリーンの開催、訪問授業、エコラップワークショップなど、多彩な活動を展開しています。楽しく、おしゃれに情報発信されているお二人の「はたらくカタチ」とは?

目次

地域で環境問題へのアクションをするために

田中さん

私は茅ヶ崎に生まれて、ずっと茅ヶ崎で育ち、今年21歳になりました。茅ヶ崎のアップサイクルジャパンという会社で働かせていただきながら、この「BENIRINGO」の活動をしています。

阿部さん

私は辻堂に住んでいて、両親共に辻堂生まれ辻堂育ちで、ずっと辻堂にいるんですが、その中で環境のことや地域のことに触れる機会が多々あり、今の活動につながっていると思います。現在24歳で、少し遅れて大学に入っていることもあり、あと半年間大学に通う必要があるのですが、そんな大学生活と並行しながら「BENIRINGO」の活動をしています。

小松

21歳! そして24歳!

小室

今までのゲストの最年少記録ですね。

阿部さん田中さん

え〜?!(笑)

小松

おめでとうございます!(笑)やっぱりクリーンですよね、空気が。清々しい!

小室

おかげさまで天気も晴天ですしね。

小松

たくさんお話を伺いたいと思います。まずは「BENIRINGO」というこの活動について、どんなことをしているのか教えていただけますか?

阿部さん

主に今、フリーペーパーを通じて地域の課題や環境問題について、分かりやすく、なおかつPOPに私たちらしく伝えることができればと思って活動しています。もともと環境問題にお互い興味があって、解決するためには、たとえば二人で毎日ビーチクリーンを続けることも大事だと思いますが、それだけでなく、大勢の人たちに知っていただいて一緒に何か行動したり考えていくことで、二人だけだったパワーがどんどん広がっていって、結果的に課題に対してより多くの影響力を与えることができるんじゃないかと考え、まずは一歩目として知っていただくことから始めようと、フリーペーパーの形で情報発信をしています。それがきっかけの一つとなって、訪問授業のお声がけをいただいたり、もっと面白くできないかなとワークショップやマルシェ、イベントを開催したりして、現在、多岐に渡る活動になっています。

SDGsを実践する場づくりが出会いのきっかけ

小松

今まさにフリーペーパー『BENIRINGO』を拝見しているんですが、すごい情報量だと思いません? 小室さん。

小室

本当に。まずPOP。

小松

そうですよね、まるでファッション誌みたいなPOPさがありますよね。

田中さん

わー、うれしいです。そこは狙っているところでもあるので。雑誌風に。

小室

開いてみるとめちゃくちゃ読みやすくて、メッセージがすごくストレート。「これ知ってください!」みたいな。お二人の伝えたいことがズバッと伝わってくる、そんな熱意を感じる誌面ですよね。

小松

そもそもお二人の出会いは、どんなきっかけだったんですか?

田中さん

私が高校3年生の時にSDGsを知って、その頃はまだ全然SDGsが普及していなかったので、まずは周りに広めたいなと思い、2019年にフリーペーパーをつくったことが「BENIRINGO」の始まりです。その後、高校を卒業して私はフリーターをしながら「BENIRINGO」の活動をやっていこうと決め、フリーペーパーを制作していたんですが、うれしいことに急にSDGsがTVなどで一気に広まることになりました。きっとたくさんの人がSDGsを知ってくれたなと思い、今度は実践する場所をつくりたいと、「BENIRINGO」を始めた1年後に、フェアトレード商品などを販売するマルシェを茅ヶ崎で始めたんです。茅ヶ崎にある「オーガニック七菜」さんという飲食店の前をお借りして、SDGsマーケットみたいなものを始めたんですが、そのお店の娘さんが汐里さんで、ぜひ一緒にやりましょうということになりました。

小松

へぇー、すごいご縁ですね!

阿部さん

私は大学で国際協力の勉強をしていて、もともと社会課題や環境課題に興味があり、大学在学中に東京などでイベントをやっていたんですが、コロナ禍で一気に開催できなくなってしまったんです。授業もオンラインになり、家からも出なくなってしまって、「こんなに時間が余ってどうしよう、もっといろいろやりたいのに!」とグルグル考えていた時に、ちょうど親から「こんな面白いことやろうとしている子がいて、『マルシェをやらせてください!』ってお店に言いに来たんだけど、何か言っていることはあなたとすごく似ているような気がするから、ちょっとインスタとか見てみたら?」って教えてくれて。いきなり会って二人で話しましょうというのもハードルが高そうだし、ちょうど興味のあるイベントがあったので「一緒に行かない?」ってお誘いして。そこから会って話ができるようになり、私も一緒に活動したいと思うようになって。

小松

「いた!」って感じだったんですね。

阿部さん

そんな感じでした(笑)

田中さん

だから会うべくして会ったのかなって(笑)

小松

そう思っちゃうくらいですよね! 本当に。

やりがいは、誰かの行動のきっかけになること

田中さん

「BENIRINGO」は主に私たち共同代表の二人で活動しているんですが、フリーペーパーのデザインは、グラフィックデザイナーの方がやってくださっています。取材のお手伝いには高校生にも入っていただいて、「コベニリンゴ」という特集を一緒につくったりしています。

小松

かわいい(笑)

小室

我々の手の届かないところをより深掘って、そして行動力がありますよね。まさにZ世代ですね。

小松

そうですよね。私たち大人がこうした若者のエンジンとなれるように頑張りたいなと改めて思いますね。

小室

本当に。

小松

こういった環境課題を多くの方に知っていただくことに、どんなやりがいを感じていらっしゃいますか?

田中さん

環境課題について訪問授業を行った後に「小学生が道端のゴミ拾いをするようになった」「ゴミの分別をするようになった」などと先生から聞いたりすると、私たちは小さな規模で発信しているけれど、それがちゃんと人につながって行動を起こしてくれるんだ、私たちは二人だけど力が無いわけじゃないんだなというのを感じて、楽しくやっています。

阿部さん

環境問題にどういうふうに私たちの活動が貢献できているのかというのは、正直まだよく分かっていないです。というのは、本当に問題・課題を調べて行けば行くほどすごく大きくて、なおかつ自分たちでどうにかできるものなのかと思ってしまうぐらい大きな問題なんですね。だけど、何もしないわけにはいかないという思いでやっています。
 
その中でやりがいや楽しいなと思える部分はやはり、受け取ってくれた人たちのリアクションを私たちが受け取ったり、どんどん人がつながっていって、それが一つの流れになって何かが動き出したり、ということが、まだ小さいですが自分たちの行動の中から発生してくることもあるので、「私たちがそういうもののきっかけになれているんだ」というのを実感した時に、やっていて良かったな、そのためなら頑張ろうかなという気持ちになります。
 
あとは「動いているのが楽しい!」というのは間違いなくあります。自分たちが、見逃せないなとか、このままじゃちょっと困るなってことに対して動き続けて、なおかつみんなからリアクションが返ってくるというだけで、楽しいという気分になっています(笑)

活動を始める前と後で変化したこと

小松

お二人は課題として見えてきたものを「伝え手」として多くの人に伝えているわけですが、伝える側として気をつけていることは何かありますか?

田中さん

私たちが伝えていることはあくまでも「提案」で、選択肢を増やすことを意識して活動しています。

小松

この活動を始める前と後で、お二人の中で心境の変化というか、何か成長を感じたりしていますでしょうか?

田中さん

私は本当に「思い立ったら即行動!」というタイプだったので、とにかく高校生の時なんて、フリーペーパーをつくるぞと思ったらすぐつくって、とりあえずつくり続ける、みたいな「思い」でやってきた部分があって、アルバイトをしながら「BENIRINGO」の活動をしてきたんですが、途中から「これじゃあ自分自身が持続可能じゃないぞ」ということに気づいて、団体として続けられる仕組みとか、どうやったらちゃんと回っていくのかを考えるようになり、「仕事にしていきたいな」と思うようになりました。

阿部さん

私は「BEBIRINGO」に関わる前は、世界や環境という、どちらかというと外向きの目線で物事を考えたり、課題を捉えようとしていたのですが、一緒に「BEBIRINGO」の活動をしていく中で、地元にフォーカスすることがすごく多くなってきて「課題って、こんなに近くにたくさんあったんだ」とか「自分の生活がそこにつながっていたんだ!」とか、自分の生活を変えることにつながるいろんな知識や経験が身についてきている気がしています。それは本当に今までと比べて変わってきている部分だと思います。

小室

前提として、まずお二人が楽しいし、地域のコミュニティとしてみなさんを巻き込んで活動されていることが全てかなと僕は思っていて、活動としてどう継続していくか、それは経済的なこともあるだろうし、誰かに皺寄せが行ってはいけないし、そういうことも全部カバーできて話し合えるような楽しい空気感・温度感を保つことが、お二人だからこそできるのかなと思います。

楽しいからやる。豊かさの実感値を決める大事な活動

小松

この番組でいろんな方のお話を聞いてきた中で、最近、「ライフか、ワークか」という二元論ではない気がしているんです。その真ん中に、仕事なのか遊びなのかよく分からないゾーンがある。特に環境問題とか、一発で解決したり、事業化できたりするものじゃないものに対してのアクションをしていらっしゃる方というのは、半分「ライフワーク」なんだろうなって感じます。お二人は「BENIRINGO」を仕事として捉えているのか、そうではないものとして捉えているのか、どうなんでしょう?

田中さん

私は、今は仕事じゃないけど、仕事にしたいなと思って活動をしていて、暮らしの中にある言葉にできない大事な何かに当てはまるのかなと思います。

阿部さん

そうですね、たぶんこの活動は、どういう形であれ続けていくんだろうなと思っています。環境問題に対してはずっと関わり続けていくだろうと。一度それを見て課題だと感じてしまったから、もう見過ごすわけにはいかないと思うので、どんな形にせよずっと関わり続けていくと思います。そのアプローチの仕方が「BENIRINGO」の中でも今後は変わっていくかもしれないですが、関わりは続けていくと思う。そういう意味では、生活の中の当たり前のルーティーンみたいになっていくのかなと。

小松

こうなると、「働く」ってどういうことなんだろうって考えちゃいますね、小室さん。

小室

「働く」、そして「楽しみ」や「趣味」。確かに切り分けなくて良くて、今、田中さんにも言っていただきましたが「生活の中にある何か」、それはまだ言葉にならないものだったり、可視化できなかったりするけれど、それは自分の生活に欠かせないものや生きがい、やっていて楽しいこと、それがある無しで生活する充実度が変わると思うんですよね。僕らがいつもお話を伺っている方々は、それがあるっていうのが共通項で、今お二人がおっしゃっていただいたことはとても腑に落ちます。同じ方向性を向いている気がする。だからきっと、とても良い活動を継続していかれるのではないかと思います。

小松

改めて「働く」っていう文字を思い浮かべると、「人」に「動く」と書いてあって、今思ったのは、動き続けている人だからこそ、その人の人生まるごと楽しいことも辛いことも、そういう「人」としての部分が「動き」に乗っかって初めて「働く」に変化していくんじゃないかと。そう考えると、お二人のこの「動き」にこれからも期待したいなと思いましたし、そこに阿部さんと田中さんの人となりが乗っかった時にどういう「働き」になっていくのか、それをこれからも見守っていきたいなと思いました。

いつもは「”働く”ってどういうことでしょう?」という質問をゲストに投げかけているんですが、今日はお二人に「どういう“働く”を手に入れていきたいか」を伺ってみたいです。

小室

もう一段階踏み込んでますね。

小松

そうですね、「どういう人間になっていきたいか」というところでしょうか。

田中さん

私は今は環境問題にフォーカスしていますが、こうした自分が取り組んだ「楽しいからやっている」ということが周囲にも伝わって、何か少しでも影響を与えられる、何かを感じ取ってもらえる、そんな楽しさや幸せをあふれ出させる人になりたいと思います。

阿部さん

まずは「どんなことでも楽しめる人」でありたいなと思います。途方もない課題に向かって走っていくのは疲れるんじゃない?って言われることもあるんですが、確かにたまに「ちょっと一旦休みたいかも」と思うこともあるので小休憩を取ることもあります。でもやはりそれでも続けているのは「楽しい」から。これからどんなお仕事をするにしても、人として生きていく上でも、どんなことでも楽しめればやれるんだろうなと思うので、「楽しむ」ということを自分の中での一つのキーワードとして持っておきたいと思います。
 
あとはやはり課題・問題に取り組むとなると、いろんな側面を見なきゃいけないので、多面的に物事を捉えられる人でありたい。一方的な目線で見てしまうと批判的になってしまったり、何かを遮断してしまう場合があるのですが、やはり今、いろんな人と関わっていく、伝えていくということをやっている中で、どうやって多面的に情報を伝えられるか、より多くの人に届けられるかが課題だと思っているので、人としても多面的に物事を見て、いろんな人に楽しさを伝えつつ、自分自身もちゃんと楽しめるような働く人になれたらいいなと思います。

▼地球過保護プロダクション「BENIRINGO」
https://beniringo.com/

& Column
正しさより強い、楽しさの力
田中さんや阿部さんらZ世代は、幼いうちから地球環境や社会課題など、個人を超えた大きな幸せの実現を目指す価値観を持っていると言われます。彼らの豊かさの指標は、有名企業に勤めることでも、高級車やマイホームを買うことでもなく、地球や宇宙的視点から見た時に意義があると思えることに自分自身を燃やせているか。自分の体感を起点に、ITや情報を自在に使って共感・共鳴を広げ、多様な人々と境界線を超えてつながり、いつの間にか社会を変えるほどの巨大なうねりをつくり出すことができる世代です。彼らの力の源が「楽しさ」であることも特徴的。「正しさ」よりもそのエネルギーは軽く、心地よく、人々を幸せな気持ちにしながら大きく広がっていきます。「働く」や「仕事」が、「生存や生活の手段」という意味ではなく、「生きる楽しさをもたらすもの」という意味で欠かせない活動になった時、働きがいや豊かさの実感も大きく変わりそう。自分の日々の経済は何かの手段で支えながら、同時に楽しい活動がいずれ経済的にも実りをもたらすように育てていく過程には、お金よりも先に受け取れるたくさんの喜びがありそうです。そんな自分なりの活動が、本当の意味での人生のキャリアとなるのかもしれません。
 (森田マイコ)

今回のゲスト

(左)阿部汐里さん/(右)田中藍奈さん

田中藍奈(たなかあいな)さん

BENIRINGO共同代表/PlantPittyメンバー/幸町こども食堂スタッフ/アップサイクル大学事務局長
茅ヶ崎市在住。生きていく上で仕事をするなら、社会問題の解決に携わりたい思っていた高校生の時、SDGsに出会い、今すぐ地元から広げたい思い、2019年フリーペーパーを制作。それと同時にBENIRINGOを立ち上げる。現在はSDGs普及活動から、環境問題を中心とした地域問題や社会課題の改善につながるような活動にシフト。地元茅ヶ崎を起点に取り組みの輪を拡大している。

阿部汐里(あべしおり)さん

BENIRINGO共同代表/TaiYouSymphony事務局
藤沢市辻堂在住。オーガニック食品店を営む両親の影響で幼少期から環境問題に関心を持つ。高校卒業後に訪れたミャンマーでの経験から、社会問題にも興味を抱き、帰国後社会課題の啓発や啓蒙活動を行う。任意団体TaiYouSymphonyで学生部を立ち上げ、啓発や啓蒙に向けたイベントを複数開催。湘南という土地ならではの強みを生かし、地元から新たな流れをつくっていきたいと、「BENIRINGO」として活動中。
 

ナビゲーター

(左)小室 慶介/(中央)こまつあかり/(右)河野 竜二

こまつあかり
岩手県出身、鎌倉在住。
ナローキャスター/ローカルコーディネーター
地域のなかにあるあらゆる声を必要な人に伝え、多様なチカラを重ね合わせながら、居心地の良い「ことづくり」をしている。
Instagram @komatsu.akari
@kamakura_coworking_house @fukasawa.ichibi @moshikama.fm828 @shigototen
湘南WorK.の冠番組である鎌倉FM「湘南LIFE&WORK」のパーソナリティを務め「湘南での豊かな暮らしと働き方」をテーマに発信。多様性を大切にした働き方、それが当たり前の社会になること。その実現へ向けて共創中。

小室 慶介(こむろ けいすけ) 
湘南鵠沼育ち、現在は辻堂在住(辻堂海浜公園の近く)。
長く東京へ通勤するスタイルでサラリーマンを経験。大手スポーツ関連サービス企業にて、事業戦略を中心に異業種とのアライアンススキーム構築を重ねるものの「通勤電車って時間の無駄だよな」という想いがある日爆発し、35歳で独立。幼い頃から「自分のスタイルを持った湘南の大人たち」に触れて育った影響か、自分自身で人生をグリップするしなやかな生き方・働き方を模索し始め「湘南WorK.」を立ち上げる。相談者が大切にしていることを引き出しながら、妥協のないお仕事探しに伴走するキャリアコンサルタント。

河野 竜二(こうの りゅうじ) 
神奈川県出身、湘南在住。
教育業界10年間のキャリアで約2,000人の就職支援に関わり、独立。キャリアコンサルタントとして活動する。それと同時に、”大人のヨリミチ提案”がコンセプトの企画団体「LIFE DESIGN VILLAGE」のプロデュースや、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の事務局など多岐にわたって活動する。湘南が誇るパラレルワーカー。

この記事を書いた人

文筆家。2007年~2018年まで鎌倉に暮らし、湘南エリアの人々と広く交流。
現在は軽井沢に住み、新しい働き方・暮らし方を自ら探求しつつ、サステナビリティやウェルビーイングの分野を中心に執筆活動を行っている。

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